交差する光と闇5 ページ47
「数人集まって言いがかりをつけておいてその程度か。デルカダールの面汚しのドブネズミ共が。心身共に、基礎から叩き直して来い！」
消沈しながら去る騎士たちを見届けてから、Aはホメロスに向き直った。
「有難う、ホメロス。それから、手間をかけさせてごめんなさい」
「お前が謝る事などない。あいつらにはいい薬になっただろう。お前も強くなったな」
くしゃりと頭を撫でてやると、Aはいささか居心地が悪そうに眉を顰めた。
「やめてよ、私もうそんなに子供じゃないんだから」
拗ねる姿がおかしくて、ホメロスも滅多に見せない柔かな笑みを浮かべて言った。
「さあ、お前も平素の訓練に戻れ」
「はい。ねえ、ホメロス…」
「どうした？」
ふと足を止め、自分を覗き込むAにホメロスは尋ねた。
「最近、何か思いつめている事はない？」
鋭い問いに一瞬顔を強張らせたが、すぐに平静を装って返答する。
「将軍になって間もないからな。色々気を張る事はあるさ」
「……そう」
とりあえず納得した様で、口の端を僅かに上げAは微笑んだ。
「それじゃあホメロス、また後でね」
姿勢よく訓練場に向かって歩いて行くAを見送るホメロスの頭に、不吉な声が響いた。
“あの娘、幼いながらもかなりの魔力の様だな”
その声の禍々しさは以前と変わらないが、ホメロスの態度は違っていた。
慌てる様子がまるでないのだ。
「ええ、手塩にかけた自慢の弟子ですよ。―――ウルノーガ様」
絶え間ない誘惑にとうとう引き込まれたホメロスは、その心も魔に染まりつつあった。
そして、かつてバンデルフォンの奸臣に化け、内側から瓦解させた魔導士ウルノーガはデルカダール王の身体を乗っ取り、勇者が現れるのを待ち構えているのだった。
“容姿もなかなか美しいではないか。我らのもとへ引き込むか？”
舌なめずりが聞こえてきそうなその声色に、ホメロスの意識は一瞬魔から引き戻され、忠誠を誓っているにも関わらず、突き刺さんばかりの強い殺意に襲われた。
だがウルノーガに、そんな心境を悟られぬ用心を怠らずに、侮蔑を含ませた風に答える。
「いいえ、腕は年不相応に立ちますが、心はまだ未熟です。ウルノーガ様の足手まといになっても役には立たぬでしょう」
本心から出た言葉には間違いないが、同時に純粋にAを魔に染めたくないと言う想いがホメロス自身にもあった。
理由はわからないが。
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
