彼と首飾り2 ページ39
翌日から、Aの騎士兼マルティナ付き侍女としての生活が始まった。
これまでより一刻ほど早起きし、まずは日課の早朝訓練から始まり、次にマルティナの私室へ行き起床と着替えの手伝い。
それが終わったら騎士としての執務など、忙しさは明らかに跳ね上がった。
更にその合間を縫って、メイドの仕事も最低限ではあるが教わらなければならないのだ。
叔母であるマルゴーや、長年城に仕えてきたメイド達は親切に教えてくれたが、若いメイド達からは眉を顰められる事も珍しくはなかった。
「A様、騎士と兼任できるほど、メイドの仕事は楽ではありませんわ」
慣れぬ仕事をどうにかやり遂げ、一息吐こうとしたところ自分より若い娘のメイドに言われ、憔悴したAの心にナイフのごとくぐさりと突き刺さった。
騎士の務めと同時にこなそうとする辺り、メイドの仕事を軽んじていると考えられているのだろうか。
「……はい、覚悟しております。慣れるまでどうかご指導お願いいたします」
Aは立ち上がり、年下のメイドに向かって頭を下げる。
メイドとしては彼女の方が先輩なのだから。
だがメイドはそれに対して尚機嫌を損ねた様で、刺々しい言葉を更にAに投げかけてきた。
「この調子ではどこまでできるのか。ホメロス様の足を引っ張るのも大概にされてはどうなのでしょうね」
その声色からして、Aは先ほどの考えに加え、自分に対する嫉妬もあるのだなと悟った。
自分とホメロスが恋仲である事は、城下町はともかく、城内ではもはや公認と言ってもいいほど知られている。
始めはそれについても公私混同が心配されたが、ホメロスとAは「公」と「私」の境界線が徹底しているため、すぐに杞憂だと判断された。
更に激務をはた目からすれば効率よく的確にこなす場面を見ていれば、文句のつけようがない。
幸いAは、メイドとしての仕事も教えられたものは1度か2度でこなせる様になり、そればかりか指示をする前に彼女たちのフォローまでも完璧に成し遂げてしまった事で、メイドからの嫉妬まじりのやっかみはすぐに影を潜めた。
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作者名:遠山すずか | 作成日時:2018年10月31日 10時