ディナーデート2 ページ33
「それじゃあ、２人ともいいクリスマスをね」
これ以上２人といるのは申し訳ない気がして、Aはその場を去った。
「クリスマス、か…」
そう呟いたあと、Aは窓から城下町を見た。
町には色とりどりの長靴やベル、キャンドルなどのオーナメントや雪に見立てた綿で飾られたもみの木が立ち、遠目だが道行く人々もどこか浮足立っている様に見える。
大半の町娘が考える様に、Aもどうせなら恋人であるホメロスと過ごしたい、と思った。
だが思い返してみると、当のホメロスはあまりクリスマスが好きではなかった印象がある。
幼い頃、マルティナとAがケーキを前にはしゃぎ、グレイグも珍しく羽目を外してシャンパンで顔を真っ赤にする中、ただ１人窓で溜息をついていた姿ばかりが思い出された。
それでも切り分けられたケーキは、噛みしめて食べていたけれど。
「ホメロスはクリスマスきらいなの？」
そう聞いてみると、ホメロスはふいと横を向いて答えた。
「あまり。聖人の誕生日ではしゃぐ意味が解らん。…いい思い出もないしな」
最後にそう言った後、表情が暗くなってしまい、Aも子供ながらに聞いてはいけない様な気がしてそのまま引き下がってしまった。
「今でも、ホメロスはクリスマスを好きにはなれないのかしら…？」
「何をブツブツ独り言言っているんだ？」
「うわっ」
突如後ろから聞こえてきた声に、Aは飛び上がって振り返った。
いつの間にか、ホメロスその人が馴染みの白銀の鎧姿で立っている。
「びっくりした〜」
「それはこちらのセリフだ。どこから声を出しているんだお前は」
まったくもって正論に対し、Aは詫びた。
「ごめんなさい、考え事をしていたものだから」
「クリスマスについてか？」
「ええ…って、聞こえていたのならわざわざ訊かなくてもいいじゃない」
顔を赤らめて反論するが、ホメロスは特に悪びれる様子もなく淡々と言い返してきた。
「それらしく聞こえてきたと言うだけで確信がなかったのでな」
「うー。まあ聞こえていたなら話は早いわ。その…クリスマス、できたら貴方と過ごしたいな、って…」
「……」
沈黙するホメロスに気まずさを感じながらも、Aは続けた。
「貴方がクリスマス好きじゃないの知っているから、なかなか声を掛けられずにいたけれど」
そこまで言うと、少し間を置いてホメロスは溜息を吐いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
