現在編7−雷雨の晩の報告― ページ15
扉を軽く叩くと、しばらくして主の声が返ってきた。
「誰だ」
「Aです」
短く名乗ると、何かを考えたかの様にしばし沈黙が訪れる。
やがて再び声が聞こえてきた。
「入っていいぞ」
「失礼します」
扉を開けて中に入る。果たしてベッドにはデルカダールの片翼、グレイグが漆黒の鎧を身に着けたまま座していた。
その髪からも鎧からも雨の雫が滴り落ち、メイド達が丁寧にあつらえたであろうシーツと私室の床に広いシミを作っている。
「どうかしたのか」
「それは私が聞きたいわよ。何かあったの?」
Aが悪魔の子追跡から戻ってきてすぐの事。
デルカダールでは数日雨が降り続いており、グレイグがその中を愛馬リタリフォンを駆り凱旋したのである。
昔馴染みであり師でもある彼を城下町の入り口まで赴き出迎えたが、ずぶ濡れで心ここにあらずでAに気付くことなく素通りされてしまった。
悪魔の子がいない所を見ると捕まえる事はできなかったのだろうが、それで意気消沈している様には見えなかった。
グレイグは視線を下に落としたまま一言口を開いた。
「お前はどうだったのだ?」
質問に質問で返されてむっとなる。
しかも要領を得られない尋ね方をされて一瞬答えに詰まるが、悪魔の子について聞かれているとすぐに察した。
「捕まえていないわよ。更に言えば会うことすらできなかった」
彼らの進路方向は自分が派遣されたサマディーより先にあるのだから、聞かなくてもわかるでしょうに、と心の中で付け足す。
だがそんな事を今のグレイグに言っても仕方がない。
グレイグが旅立ちの祠で悪魔の子を取り逃がした後、ホメロスはグレイグとAに今後の方針についての指示を述べた。
旅立ちの祠はデルカダールより南東にあるホムスビ山地へ続いており、その先で人が集まると思われる場所へそれぞれ出向くと言うものだった。
逃亡者は人混みに紛れるもの、なら近々人が集まる催しが開かれるサマディー、ダーハルーネ、グロッタに行けばそこからあぶりだせるだろう、と言う訳だ。
3国ではそれぞれウマレース、海の男コンテスト、仮面武闘会が開かれる。
Aが行く事になったのは、砂漠の王国サマディーだった。
更にダーハルーネへはホメロス、グロッタにはグレイグが行く事に決まった。
ダーハルーネは貿易が盛んな港町であり、ホメロスは海戦を得意としていたのでこれ以上の適任はいないだろう。
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遠山すずか(プロフ) - りぃんさん» りぃん様、最後まで読んでいただきありがとうございました!またお気遣いのお言葉も、本当に嬉しく思います。短編の方も頑張って更新していきますので、またよろしくお願いいたします。 (2018年5月25日 16時) (レス) id: 1a8ae502d9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃん(プロフ) - 完結おめでとうございます!お体を優先に気長に短編お待ちしております。本当に大好きな作品でした。 (2018年5月25日 16時) (レス) id: 7ca0ccb51c (このIDを非表示/違反報告)
遠山すずか(プロフ) - りぃんさん» りぃん様、コメントありがとうございます。ホメロスへの救い欲しさが募り、この連載の執筆に至りました。楽しみにして頂いているとの事、とても嬉しいです!頑張って更新していきたいと思います。これからもよろしくお願いします。 (2018年5月14日 10時) (レス) id: 1a8ae502d9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃん(プロフ) - 初コメ失礼します。この小説とても楽しみに読ませて頂いてます!更新頑張ってください! (2018年5月14日 10時) (レス) id: 7ca0ccb51c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遠山すずか | 作成日時:2018年4月26日 18時