1皿目 ページ1
もう今日は店仕舞いだ、と厨房から祖父の声がかかる。昔ながらの定食屋を営む祖父は、大体気分で店を開けたり閉めたりする。
「はーい。じゃあ外の看板下げてくるね
片付けもしとくからもう休んでいいよ」
「Aは？」
「賄いいただいて片付けてから帰ります！」
繁華街からひとつ奥の道に入った祖父の店は、繁盛店と言うほど流行ってはいないが、昔から変わらない確かな味に固定客がついている。
なんの変哲も無い味が、懐かしくて、たまに泣きそうになる。昔何かの雑誌にそう書かれて、深く頷いた。
私も、固定客の一人だ。
店の外に出ればちょうど陽が沈むところで、空には橙と紺が混じっている。
きっとこれから夕飯を取る人も多いだろう。
そんな時間に営業終了するんだから、誰かこの店を目当てにやってきて、引き返すことになるかもしれない。
そうなったらなんだか悪いな、と思いながら看板を下げていると、背後から「えっ」と小さな声が上がる。
振り返ればキャップを目深に被った小柄な男性が、こちらを見て佇んでいる。
「あっ、お客さん、ですか？」
「あー……終わりですか？」
「そうなんです、ごめんなさい」
「ん……」
残念そうに、それでいて少し苛ついた様にも見える彼がため息をひとつ吐いて踵を返したところで、何故だかその後ろ姿に「待って！」と声を掛けてしまう。
私の声にビクッと肩を震わせた彼は、もう一度こちらに振り返ると、怪訝そうな顔で「何」とだけ言った。
「あの、出せるもの限られちゃいますけど、
それでもよかったら……どうぞ」
「…………いい、んですか？」
「これから賄い作るのでまだ片付けてなくて。
だから店、貸し切りですよ」
「…………」
余計なことを言った、と思うのはいつも言ってからだ。
目の前にいる彼の向こう側で、橙はほとんど紺に飲み込まれようとしていた。
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svt11117(プロフ) - ほんとにすごく今更だけど、何故か急にこのお話のこと思い出して無性に読みたくなっちゃって漁りまくって読み返しちゃいました！初めて読んだ時と変わらずとても面白くて一瞬で読んじゃいました笑笑 自粛期間の私の唯一の楽しみでした、ありがとうございました､!! (2023年3月10日 20時) (
レス) @page30 id: 45166a94c7 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - あやまろさん» コメントありがとうございます。書きながらちゃんと面白いのだろうかと思っていたので、そう言って頂けてうれしいです。引き続きよろしくお願いします！ (2020年11月8日 22時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
あやまろ(プロフ) - 初コメさせていただきます！今1番更新が楽しみな作品で更新される度ニヤニヤして読んでます笑 そして何よりお忙しい中更新してくださってありがとうございます！ (2020年11月8日 17時) (レス) id: 74f0e4a445 (このIDを非表示/違反報告)
my(プロフ) - ★たくさんお気に入りしてくださってありがとうございます！このお話は年内に完結するようにがんばりたいと思います。また別のお話や短いお話も書きたいなと思っています！ (2020年11月5日 19時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - めぐさん» お返事遅くなってすみません！コメントありがとうございました……！まただいぶ間隔があいてしまいましたが少しずつ進めていけたらと思っています。これからもよければお付き合いください！ (2020年10月17日 4時) (レス) id: 34a0877eba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：my | 作成日時：2020年2月16日 0時
