終天に巡り逢うⅣ (ページ36)

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番外編2 ページ36

ああ、苦しい。

「嫌だ…死にたくない…っ！！」

足をもつらせてでも逃げようとする男を見下ろす。
あたりは血の海だ。むせかえるほどの血臭が充満している。

『…残念だね。あんたは死ぬよ』

「嫌だ…嫌だ！！」

『…』

「た、たのむ！！助けてくれ！！何でもするから！！」

『へぇ。何でも？』

「！ああ！！何でもする！！」

その言葉にフッと笑みを浮かべた私をみて男は希望を宿す。

「何が望みだ？金か？名誉か？」

『いいや』

「じゃあなんだ！？」

『…帰りたいんだ』

「、は？」

意味が分からなそうな顔で男は私を見上げる。

『帰りたいんだよ。私がいた場所に』

「か、帰ればいい！！」

『馬鹿だなぁ、』

それが出来たら苦労しないだろ。
と嘲笑い、刀を一閃する。

ードシャッ

飛び散るアカ。
汚いアカ。忌まわしいアカ。命のアカシ。

『…』

息を吐いて、空を見上げる。
そこには、憎らしいほど清々しいアオが広がっていて。
まるで、世界が穢い私を拒絶しているような気がして。

孤独を、感じて。

『ああ…』

苦しい。苦しいよ。ねぇ、________。

『…』

無駄なのに。
願うだけ、絶望するだけなのに。
なのに私はまだ縋ろうとする。
なんて愚かなんだろう。浅ましいんだろう。欲深いんだろう。

こんなにも血に塗れておきながら。

ああ、どうして、こんなにも血に塗れているのだろう。
ああ、どうして、こんなにも独りきりきりなのだろう。

______なんて、考えるだけ無駄なのに。

刀を振るい、血を落とす。
ぴしゃりと飛び散るアカを見下ろす。
どろどろして、汚い。
それに塗れる私もまた、キタナイ存在だけれど。

『…』

苦しい。生き苦しい。
ねぇ、ねぇ。誰か、私をここから連れ出してよ。
私をこの、絶望と孤独と血に塗れた世界から連れ出して。

『でも、きっと無理なんだろうなぁ』

だって、私は柊の犬だ。
噛み付けば、逆らえば、きっとみんなが殺されてしまう。
それは、望んでない。
だって私の存在理由はみんなを守ることだから。
みんなの命を守ることだから。
私なんかが傷付いたところで、この世界には何の影響もないんだから。

『…』

ずん、と胸の奥が重くなる。
また呼吸がし辛くなる。息がしにくくなる。

『ああ、ああ。神よ。何故おまえは私をこんな所に連れて来たんだ。それは無意味なのに』

答えはない。
神なんか、そんなものだ。気紛れに、遊戯に興じる存在。

『くそが』

小さく吐き捨てた。