番外編１ ページ35
ールク邸
これは、まだウルド様に出会う前の話。
キ・ルク第五位始祖の気紛れによって彼の屋敷に連れて来られた私は、目の前のお菓子を頬張っていた。
うまい。毒？そんなの入ってないし、入ってたとしても耐性があるから意味なし。
「おまえさー」
『なんですか』
「だいぶ懐いてきたよな」
カウチで寝そべりながら言うルクさんの言葉に、呆れた顔で彼を見る。
『私は猫か何かですか？』
「にゃーって言ってみるか」
『嫌ですよ。何言ってるんですか馬鹿ですか』
「はは。生意気だなーほんと。普通殺されてるぞ？」
『きゃーたすけてールクさまーご慈悲をー』
「ははは」
おかしそうに笑ってむくりと起き上がり、クッキーを一つ摘み上げる。
「これ、」
『はい』
「うまいのか？俺は何も唆られないけど」
『美味しいと思いますよ』
「へぇ。そこらへんの人間に作らせたやつだけど？」
『趣味だったんですかねぇ？私は好きです。この素朴な味』
そう言って、サクッと齧り付く。
うん、おいしい。この庶民的な素朴さがいいんだよ。高級菓子？いらない。
「…」
『…』
食べる姿をジッと見られて居心地が悪い。
『…なんですか』
「んー…」
『…』
嫌な予感しかしない。
「ほら」
と、つまんだクッキーを向けられる。
『なんですか』
「食えよ。うまいんだろ？」
『自分の手で食べます』
「却下」
『…じゃあいいです』
「だーから。食べろよ」
ムカつく。なんだこいつ。からかってるだろ。
クッキーを見て、ルクを見る。楽しそうにニヤニヤしている。
殺意しか湧かない。というか羞恥で死ねる。何が嬉しくてルクの手からクッキーを食べなければならないんだ。餌付けかよ。
『…はぁ、』
と、大きな溜め息を一つ。
そして素早い動作でそれを口にし、割ると離れる。まぁ、この男には止まって見えるだろうが。
じと、と半目で咀嚼する私を見下ろすルクはまた笑ってクッキーをつまむ。
「ほい」
『…、』
「ほーら」
こいつまじいつか殺す。
そう思いながら死んだ顔でそれを食べる。もぐもぐと無表情に食べる私を、何が面白いのか満足げに見下ろすルクの心境は如何に。
「なんだっけなー」
『…』
「うん。餌付け」
殺す。
「いい子だなー素直で」
『は』
「おまえ、絶対根は素直だよ」
『…そうなんですよー根は素直な良い子ですぅ』
「ま、捻くれてはいるけど」
と笑ってまたクッキーを差し出した。
『けっ』
「ははっ」
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作者名：クウ | 作成日時：2022年4月5日 20時
