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「…」
『湧き上がるはずのない興味が湧いて、少しばかり毛色の違う家畜を飼ってみたら案外暇つぶしになった。貴方は永遠の生を持っている。その内のほんの僅かな時間の退屈凌ぎに見つけた家畜を取られるのが嫌なんですよ。でも、そこに感情を持つべきじゃない』
淡々と言う。
『分かってるんでしょう。貴方に何かを愛でる感情なんてない。そんな感情は吸血鬼にはない』
「そうだ」
『なのに何故イラつくんです?たかが家畜の動向に』
ウルド様は何も言わずに私を見下ろす。
「…ただの暇つぶしだ」
『ええ』
「それ以外の感情はない」
『ええ』
「それなのに」
『…』
「何故こうも、心が騒めかされるのか」
唸るように言うとウルド様は私の首筋に顔を埋める。そして、牙を穿った。
少し血を吸い、離すと今度は反対側に牙を穿つ。血を吸われるこの奇妙な感覚は慣れない。命を奪われているのに、それが気持ちいいだなんて。
ぐ、と眉根を寄せてそれに耐える。
「…」
顔を上げたウルド様の瞳には僅かな困惑が見て取れた。それに眉根を寄せる。
『…私に、情を移さないでください』
「…」
『私にそれは必要ない』
拒絶を明らかにすれば、彼は僅かに瞳を細める。
『貴方だって、こんな世界で特別な存在は作りたくないでしょう?愛情や親愛など…ましてや家畜相手に』
「…」
ウルド様は黙り込む。何か考えるように伏し目がちになり、やがて私の上から退いた。
身体を起こすと、くらりと身体が揺れたのを彼は支えてくれる。
「血を飲み過ぎたな。そこで眠っていろ」
『いえ。自室で…』
「ここで寝ろ」
とんっ、と肩を軽く押されるだけで簡単に傾く身体はベッドに吸い込まれる。
だから私の部屋の意味だよ。
ウルド様を見上げれば、今までとは何か違う表情をしているような気がして小さく心の中で嘆息する。
立ち上がり、部屋を出て行くウルド様。その姿が見えなくなると、腕で目元を覆った。
『…情は、持たない方がいいんですよ。…お互いに』
この数ヶ月、一緒に過ごして情が湧きそうになっていたのは事実だ。
あの人は…、たぶん根が優しい人だ。私のような人間相手にでもきちんと受け答えもしてくれるし、見下すような色は見せていない。それは私に対してだけか、それとも他に対してもかは分からないけれど。
でも、情は持つべきじゃない。私と彼は違う存在なのだから。相容れないのだから。
なのに。
『あー。くそ…』
胸が痛むのは何故だろう。
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作者名:レイ | 作成日時:2021年5月2日 22時