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『…日本から吸血鬼が?』
「ああ」
ある日いつも通りウルド様の手伝いをしていると、彼から日本の吸血鬼が来ることを伝えられた。
『…どなたが来るんですか?』
「クルル・ツェペシだ」
『クルル・ツェペシ…様ですか』
「ああ。日本を統治している第三位始祖の貴族だ」
わざわざ彼女が日本からロシアに来るのか。通信じゃダメなのかな。
と、艶やかな桃色の長い髪を持ち気の強そうな吊り目がちな瞳を持つ美少女を思い出す。
兄に執着し、求め、禁忌を犯す彼女。
頼むからフェリドは来るなよ。アイツは嫌だ。だって面倒だから。
「どうした」
『ああ、いえ。クルル様だけですか?』
「他にも何人かくるらしい」
『…へぇ』
確か、アリシア・ヴァーデンの父はリーグだった。ならフェリドとは兄弟になる。…仲は良いのだろうか。もしそうなら、何かしらの話を聞いているかもしれないな。私の苗字を聞いたら奴は勘づくだろう。…そうなったら、非常に厄介だ。
「何か問題でもあるのか」
『いえ別に』
「日本だから気になるのか?」
思わずウルド様を凝視する。
「…なんだ」
『あ、すみません。…別に日本のことなんて興味ないですよ』
「そうか」
『はい』
かたん、とペンを置いてウルド様は私を見る。
『なんですか?』
「何か欲しいものはあるか」
『!?』
動かしていた自分の手を止めて、どういうつもりなのかと勘繰るように見つめる。
「何もないのか」
『え…ええと…なんでもいいんですか?』
「許容範囲内ならな」
『じゃあ…あの…日本刀が欲しいです…』
「…日本刀」
す、と瞳を細めたウルド様は真意を探るように私を見据えた。それに肩を竦める。
『別に他意はありません。ただ、日本刀の方が修練の時に使い易くて。私はよくそれを使っていたので』
「…なるほどな」
『それに、それを手に入れたとしても何の脅威にもならないでしょう?』
「ああ、そうだ」
ウルド様は頷くと少し視線を下げてから、もう一度合わせてくる。
「いいだろう」
『ありがとうございます』
「…おまえは…」
少し躊躇う素振りを見せた彼に首を傾ける。
「…此処が敵地だと思っているのか」
『…なぜ?』
「私の庇護下にあると自覚していても、武器を求めるからだ」
鋭い指摘に思わず苦笑して、困ったような表情で口を開く。
『…そういう環境で育ってきたら……そう簡単にその癖は抜けないものですよ。…それが血腥い所だったのなら尚更です』
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作者名:レイ | 作成日時:2021年5月2日 22時