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すやすやと眠るAを見下ろす。
首筋には私が牙を穿った痕が残っている。そこに指を伸ばして触れると、彼女は僅かに身動いだ。
「…」
何故、彼女の血を飲んだのだろう。喉は渇いていなかった。それに直接的な吸血は禁じられている。なのにAの血が欲しいと思った。
彼女に傷を付けていいのは自分だけだと知らしめるために。他にはそれを赦さないと。
なんだ、この感情は。何故そんなものが湧き上がる。ただの人間の小娘に。
「…分からないな」
この胸の辺りにある、しこりのようなものはいったいなんだ。こんなものは知らない。
この娘はただ、少し、面白いだけ。だから側に置いているだけだ。それ以外に理由なんてないのだ。だから、飽きたら捨てる。
だが、やはり彼女の血からはアイツの…リーグの味が僅かにした。しかしAは吸血鬼ではい。どういうことだ？奴の差金なのか？彼女はいったい何者だ？
『ん…』
首筋にあてた指からは、とくとくと脈打つ血管の振動が感じ取れた。
生きている証だ。私と違って、生に煌めく存在。
だから、側に置くのだろうか。
自分と正反対のものに惹かれるという。これも、そうだからだろうか。
「…私らしくない」
何千年と生きてきた。執着するものも、もう失った。失ったはずなのだ。欲 情するのは血に対してのみ。こんな人間の小娘に、興味が引かれるなど。
と、思っているとAが私の手に擦り寄った。
「…まるで猫だな」
彼女が私に対して警戒心を抱いているのは知っていた。取り繕っているのも。こちらの出方を伺っているのも。
彼女は誰に対しても心を開いてはいない。心に高く壁を張り巡らせて、侵入を許していない。それは仲が良さそうに見えるルクにさえも、決して許さない。
…それが何故だか不愉快だと思った。
「…」
ただの人間だ。ただの、非力な小娘だ。
なのにルクに挑むなど、正気だと思えない。
不貞腐れた表情でルクに負けたと言ったAは、負けず嫌いなのだろう。
吸血鬼…それも第五位の貴族に勝てるわけがないのに…馬鹿ではないはずなのだが。
艶やかな黒髪に指を通してみると、想像通り柔らかな指触りだった。そのまま指に巻き付け、弄る。
「…」
こうやって、誰かに触れるのもいつ振りだろうか。
…だが悪くないと思った。こんな時間もたまにはいいと。
「変な人間だ」
吸血鬼にそんな感情を起こさせるなど。
だからもう少し側に置いておこう。私の興味がなくなる、その時までは。
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作者名：レイ | 作成日時：2021年5月2日 22時
