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「とにかく、アイツには私の屋敷に立ち入らせないようにしておく。屋敷の者にも通達しておこう」
ぱちり、と瞬きする。
何もそこまでしなくてもいいんじゃないだろうか。流石に彼女でもこの屋敷内で揉め事は起こさないだろうし…多分。いや分からないけどさ。
『それ…逆に恨み買いませんか？』
「目に余る行動をした結果だ。自業自得だろう」
『…そうですか』
たかが絡んできたくらいで大袈裟ではないかなぁ？
「分からないって顔すんなよA」
『はぁ。すみません』
「おまえも安全な使用人ライフを送りたいだろ？」
『そりゃまぁ…』
絡まれるのと絡まれないのではかなり違う。でも、たかが人間の小娘如きにそこまでするのかっていう…。他の吸血鬼も不満というか…そういう気持ちにはならないのだろうか。
「ウルド様の厚意を受け取っておけって。おまえは、この屋敷で手伝いをこなしてればいいんだよ」
『そうですか。ウルド様が良いんなら私は別に何かを言う権利は無いので』
もう勝手にしてくれ、というのが正直な感想だ。
仮にあの女に絡まれて死んだとしても、別に私は何も思わないし。そういう運命だったのかって感じだし。
「まーた、おまえはそういう顔するだろー？」
『はい？』
「おまえ、自分の命に執着心無いだろ」
ルクさんの鋭い指摘に口を噤む。彼は意外と観察力や洞察力があるのは知っていた。だからボロを出さないようにしていたのに。
「なんでそうなのかは知らないけど、少なくとも今のおまえの命には価値があるってことを忘れるなよ」
『価値？』
「そ。ウルド様のものなんだから」
『…それは、価値と呼べるんですか？』
「お。それ言っちゃうのか？」
楽しそうにルクさんはウルド様を見た。それに私も彼に視線を向ける。
「…くだらん」
『ですって』
「おまえのことはちゃんと評価している。卑屈になるのは勝手だが、くだらない卑下はやめろ。鬱陶しい」
『！』
その言葉に少し瞳を見開いて、何かを言おうとした唇を閉じる。
どういう意味だ。評価している？私のことを？人間なんかを？何故？
「おまえがどう思っているのかは知らないが、おまえに価値が無いのならとっくに捨てている」
『…そうですか』
少し視線を落とすと、
『っ！？』
「下を向くな」
黒い手袋をした指先に私の顎が掬い上げられる。
「前を向け。私の後ろで堂々と控えていろ」
真っ直ぐで偽りの無い眼差しに気圧され、躊躇いがちに頷いた。
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作者名：レイ | 作成日時：2021年5月2日 22時
