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婚礼の場は、南雲家と松村家、双方の体面を損なわぬよう整えられていた。


名家同士の縁として恥じぬだけの格式を保ちながら、必要以上の騒がしさはない。


そういう場だった。


そこへ向かう前に、Aはもう一度だけ南雲家の廊下を歩いた。


廊下の角を曲がったところで、綾子が立っていた。


婚礼の支度を整えたAを見て、綾子はほんの少しだけ目を見開く。


何か言うのかと思ったが、すぐには口を開かなかった。


しばらくしてから、ようやく小さく言う。


「……綺麗ね」


それが心からの言葉かどうかはわからない。


たぶん、綾子自身にもわからなかったのだろう。


悔しさも、羨ましさも、納得できなさも、まだ胸の中にあるはずだ。


それでも今、この瞬間にそのひと言を絞り出したのなら、それはきっと綾子なりの精いっぱいだった。


Aは静かに頭を下げた。


「ありがとうございます」


綾子は少しだけ唇を結び、それから視線を逸らす。


「……お幸せに、なんて、言わないわよ」


正直な言葉だった。


「でも、北斗さんにまで捨てられたりしたら、許しませんから」


その言い方が綾子らしくて、Aは胸の奥が少しだけ痛み、でも同時にどこかあたたかくもなった。


「はい」


それだけ返すと、綾子はもう何も言わず、ただ道を空けた。


完全な和解ではない。


けれど、これが今の二人にできる精いっぱいなのだろうと思う。


──────


式の場で北斗を見た瞬間、Aは一度だけ息を止めた。


これまでも何度も会ってきた。


けれど今日の北斗は、そのどれとも違って見えた。


整えられた髪。


きちんとした装い。


まっすぐに立つ姿。


静かなのに、目を離せない。


そして何より、その目がAを見つけた瞬間、ほんの少しだけやわらいだことが、胸の奥へまっすぐ届いた。


ああ、この人のところへ行くのだ。


今さらのように、その実感が押し寄せてくる。


儀式は静かに進んだ。


言葉を交わし、盃を重ね、形のうえでも二人の縁が結ばれていく。


そのひとつひとつが終わるたび、Aの中でも何かが少しずつ定まっていく気がした。


怖さがなくなるわけではない。


けれど、それ以上に、北斗の隣へ行きたいという気持ちが今ははっきりしている。


式の途中、ほんのわずかに視線が合った。


北斗は何も言わない。


けれどその目だけで十分だった。


大丈夫です、と言っているように見えた。

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mauri(プロフ) - (^-^)さん» コメントすごく嬉しいです、!こちらこそお付き合い頂けて本当に有り難いです、!後日譚でもキュンキュン用意してますので、是非よろしくお願いいたします! (3月22日 1時) (レス) id: 29c379210f (このIDを非表示/違反報告)
(^-^) - とても楽しく読まさせて頂きました。心温まるストーリーとお言葉に、キュンキュンさせられました。続篇とても嬉しいです。これからも楽しみにお待ちしております。 (3月22日 1時) (レス) @page50 id: 0f3b89c895 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:mauri | 作成日時:2026年3月14日 23時

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