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北斗は少しだけ身体を離して、Aの顔を見た。


涙で濡れている。


けれど、ちゃんとこちらを見てくれている。


「……触れてもいいですか」


頬を指しているのだとわかった。


Aは恥ずかしくなりながらも、そっと頷く。


北斗の指先が、涙の跡をやさしく拭った。


それだけなのに、肌がひどく熱くなる。


「泣かせたかったわけではないんです」


「わかっています」


「でも、泣いている顔も……」


そこまで言って、北斗は珍しく少し言葉を止めた。


「……困るくらい、かわいらしいですね」


Aは思わず目を見開く。


そんなことまで言われるとは思っていなかった。


「っ……」


言葉を失っていると、北斗がほんの少しだけ目元をゆるめる。


「すみません」


「謝ることでは、ないです……」


「では、撤回しません」


その言い方が少しだけずるくて、Aはますます顔が熱くなる。


北斗はそんな様子を見つめたあと、もう一度だけ静かに抱き寄せた。


今度はさっきより自然だった。


お互いの身体が、少しだけこの距離に慣れたのかもしれない。


会えなくて苦しかったことも、身分の差に怯えたことも、今こうして抱きしめられていると少しだけ遠くなる気がした。


もちろん、何も解決していない。


昌江も綾子もいる。


松村家のことだって、まだ先は見えない。


それでも今だけは、北斗の腕の中にいられる。


その事実だけで、十分すぎるほどだった。


しばらくして、北斗が低く言う。


「……そろそろ、信治郎さまにご挨拶しに行きましょうか」


Aはその言葉に、少しだけ身体を強張らせた。


現実へ戻る。


そういうことだ。


北斗はすぐにそれを察したらしく、抱く腕を少しだけやわらげた。


「大丈夫です」


そのひと言は、何の保証にもならない。


それでも不思議と、少しだけ信じられる。


「今度は、私が隣におります」


Aは目を閉じ、北斗の着物をそっと握った。


「……はい」


返事をすると、北斗はようやく本当に身体を離した。


でも最後に、名残を惜しむみたいに一度だけAの手へ触れる。


そのぬくもりを残したまま、二人は立ち上がった。


もう、ただの“養女”と“名家の嫡男”ではいられない。


そうと知りながら、それでも一緒に前へ出ていくために。

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mauri(プロフ) - (^-^)さん» コメントすごく嬉しいです、!こちらこそお付き合い頂けて本当に有り難いです、!後日譚でもキュンキュン用意してますので、是非よろしくお願いいたします! (3月22日 1時) (レス) id: 29c379210f (このIDを非表示/違反報告)
(^-^) - とても楽しく読まさせて頂きました。心温まるストーリーとお言葉に、キュンキュンさせられました。続篇とても嬉しいです。これからも楽しみにお待ちしております。 (3月22日 1時) (レス) @page50 id: 0f3b89c895 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:mauri | 作成日時:2026年3月14日 23時

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