トラップ8 ページ34
「そろそろ動けるようになってきたから、私、シュウと暮らす家を探しに行かなきゃ。ここに住むわけにはいかないでしょ?」
のんびりすごしたおかげで、だいぶ元気になってきた――気がする。
シュウと一緒に暮らすと言っても、工藤邸で暮らすのはハードルが高すぎる。
だって、隣に哀ちゃんが住んでいるんだよ?
それに、シュウと一緒に暮らすといった私が工藤邸に住んでいるなんて事実自体が、零に向かって「沖矢昴は赤井秀一です」と宣言しているようなものだ。
「どうして?」
はい、どうぞとロンドンで買ってきたカップにミルクティーを注いで出しながら、沖矢さんは首を傾げる。
「どうしてって……。零にあっという間に正体ばれるよ?」
今日は組織の仕事があって手が離せないとしても、そのうちここにたどり着く。
「何のために有希子さんがここに一週間も居たと?」
え? 暇つぶしなんじゃないの?
でなければ、ファンである赤井秀一と楽しく過ごすためとか、夜な夜な私と飲み歩くためとか――
ってわけじゃないか、きっと。
「――え? ミステリートレインで哀ちゃんを守るための準備期間?」
「まさか、一週間も必要ない。――家主になりきるメイクを習った」
なるほど。沖矢さんは工藤優作になって――
「え? 私は有希子さんになってここで過ごすってこと?」
「ずっとそうして過ごすのは現実的じゃないが、少なくとも降谷君が来た時に騙すくらいはできる。
君だって一週間も一緒に居たら、彼女の口調や思考くらい真似できるだろう」
――あのさー、そういうことは前もって言っておいてくれればいいのに。
毎晩のお誘いは、有希子さんのただの気まぐれ&わがままなってわけじゃなかったんだ。
深い意味があったのね……。
「元々降谷君と有希子さんには面識はないから、完璧である必要もない。
有希子さん、張り切ってそれは楽しそうに、君が着る変装用の服をあれもこれもと買って行ってくれた」
なるほど、そういうことか。
やたら親し気にことあるごとに人の身体を触ると思ったらサイズ確認を――って、そうじゃない。
「どうしてそういうこと事前に教えてくれないの?」
「君は大抵、俺が事前に持ちかけたことにはNoとしか言わないからな。他の人の頼みは断れないくせに、俺の頼みは大抵、断るじゃないか」
心当たりは、十分にある。
「……今後は善処するから、事前に教えてくれる?」
「場合によるが。君がそういうならこちらも善処しよう」
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時