トラップ1 ページ27
沖矢さんと私は、タクシーでその駅から少し離れ、別の場所で、東京で乗り捨てOKなレンタカーを探して借りた。
「Aさん、お腹が空いたでしょう、お昼ご飯は何にしましょうか?
この辺りは何が有名なんでしょうね?」
レンタカーに乗った沖矢さんは、ごくごく普通の調子で私に話しかけてくる。
さっきのキスのことがあって警戒していた私も、そのうち気にならなくなってきて、スマホでネット検索をかけて、お店を探し、一緒に遅めの昼食を取ることにした。
沖矢さんが比較的遅めに高速道路に上がったのは、他の人と時間がかぶることを避けたのだろう。
運転を代わりたいと言えば、途中のサービスエリアで車を止めて変わってくれる。ご当地アイスを見ていたら、もちろん私のために買ってくれるので、私は普段シュウにそうしたように、沖矢さんにもアイスを差し出した。
車中で、実は、あのまま列車が名古屋についていたら爆破させられていたという話を教えてくれてぞっとしたりもする。
「本当に、有希子さんはどうしてあなたをこんな列車に――」
沖矢さんはため息をついた。
「そういえば、有希子さんとは一緒じゃなくて良かったの? 命の恩人だし、シュウの大ファンなのに」
私よりもずっと、有希子さんの方が赤井秀一に詳しいし、好きの熱量はものすごく高い。
シュウ、と呼びかけたからか彼は変声器のスイッチを切って声を戻した。
「変装を教えてくれたという意味では命の恩人だが、君を平気で巻き込むという意味では――命の恩人とは言い難いな。
それに、彼女が俺のファンで居られるのは、FBIとして活躍していた俺のことしか知らないからだ」
運転席から手が伸びてきて、ぽんと私の頭を優しく叩いた。
「俺の全てを知っているのは、君だけだ。Kitty。今日は慣れない場所で大変だったな。
後でもう一度運転を代わってほしいから、今は少し眠るといい」
優しくそう言われて、私は素直に目を閉じた。
――だから、次に目が覚めたときにベッドの上で私は本当に驚いた。
「久しぶりだな、降谷君。
君の彼女ならうちに居る。
あの子を一人にしておいた君のミスだ。
――もう少しで、別の男にさらわれるところだったのを知らないからそんなことを――。嘘じゃない」
そんな声が寝起きの耳に入ってきて慌てて身体を起こす。
スマホ片手に話していた沖矢さんは、物音で私の起床に気づきこちらに視線を投げると、煙草片手に妖艶な笑みを見せる。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時