ミステリートレイン18 ページ25
「A、もう大丈夫だ。心配しなくても、ずっと俺が傍に居る」
耳元でささやかれたのは、沖矢さんの声でシュウの口調。
自由の効かない私の身体から、そっと拳銃が離れていく。
直後身体はふわりと抱き上げられた。
彼は多分椅子に座りなおして私を抱きしめなおした。
「すまない――君に甘え過ぎていた。
あとは何も心配しなくていい。このまま眠ってくれても構わんよ。無事に家まで連れて帰る」
「何があったか、教えて？」
唇から絞り出した声は、とても震えていた。
答えの代わりに、暖かい唇が私の唇に優しく触れた。
「貨物車に積まれていた火薬が爆破しただけだ」
びっくりして、反射的に瞳を開く。
貨物車に火薬が載せてあったって、もはや最初からこの列車やばくない？
至近距離で私を見つめていた、眼鏡越しの緑色の瞳が、ほっとしたように甘く緩んだ。
「だけって……。零とキッド君は？」
貨物車に行くと言っていたはず。
「大丈夫。誰も死んでないから、心配いらない――。
少なくとも、降谷君はもう、客車に移動している。
キッドも、逃走ルートなら複数準備しているはず」
「――はずって！」
叫んだつもりだけど、全然声のボリュームは伴っていなかった。
起き上がりたくても、身体に力が入らない。
「そもそも、どうして君が貨物車にいるのが【キッド】だと知っているのか詳しく聞きたいものだ。
そんな顔しなくても大丈夫。あのキッドがそうやすやすと死ぬわけもない。今すぐ、確認するからスマホを貸してくれる？」
沖矢さんは私の鞄からスマホを取り出すと、慣れた手つきで電話をかけた。
「おねーさん、こんなにすぐ連絡してくれるなんて。もしかしてオレのこと心配してくれた？」
スマホの向こうから、いつもの調子でキッド君の声が響いてきてホッとする。
「心配するに決まってるでしょ？ 無事でよかった」
私の代わりに、私の声で話してくれるのは沖矢さんだ。
「なぁんだ。もう一回キスがしたくなったのかと思った。ねぇ、少しはオレのこと――っ」
ってキッド君が突然恋人に向けるような甘い声を出すから、私の心拍数が上がる。
私を見ていた沖矢さんの目がすうっと細くなる――怖い。
何でいまだに指先1つ動かせないの、私の身体。動いて、頼むから。
「――馬鹿なこと言ってないで、コナン君にでも連絡してあげたら？きっと心配しているわ」
そう言って沖矢さんは通話を切ってしまう。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年11月25日 12時
