ミステリートレイン16 ページ23
「へぇ、もしかして哀ちゃんも楽しみにしているって言ってた?」
「どうだったかなぁ……。その話をした後で部屋から出て行っちゃったかも。
でもきっと、楽しみにしているよ! お礼言いたいし」
そりゃ哀ちゃん逃げ出すよね。可哀そうすぎる。いっそ、最初から哀ちゃんについていてあげればよかった。
その後きっと、沖矢さんも良かれと思って哀ちゃんに意味の通じない声かけをしたに違いない。じゃなきゃ走って逃げることないもん……。
私は歩美ちゃんと別れた。
しばらくして、8号車で火災が起きたとアナウンスが入る。
大パニックの人たちが私の傍を駆け抜けていった。
これは事実なのか、罠なのか。
哀ちゃんは今、死にたい気持ちかな……。
そうだとしたら、8号車に行くのが手っ取り早いよね。
少し前までは機会があれば亡き両親の元へ行きたかった私は、「誰にも迷惑をかけずに死にたがる」の人の思考が手に取るようにわかる。
私は人の流れに逆らい8号車に足を踏み入れた――。
突然口を塞がれて、一瞬のうちに個室へと引きずり込まれる。
「……っ」
「しい、声を荒げないで、お願い」
耳に入ってきたのは哀ちゃんの声。驚いてみてみれば、群馬で動画で見かけた、大人の姿の哀ちゃんがそこに居た。
「あ……哀ちゃん?」
「私のことはいいから、放っておいて。一緒に来てはダメよ、わかった?」
「そんなこと言ったって……っ」
「いいから。江戸川君の考えに従っているから、邪魔しないで欲しいの」
「でも」
「やっぱ哀ちゃんのお願いは聞けない方針? 仕方ないな、オレを信じて待っていて、おねーさん❤」
え? キッド君? と理解した瞬間、彼の――哀ちゃんの唇が私の唇に押し当てられた。
――うっそ。今キスしたよね? チュっと、軽いリップ音が部屋に響く。
「生きて帰ってきたら、もっとご褒美頂戴。じゃあね」
キッド君は、私に哀ちゃんの居場所を私に伝えると、カチッと何かのスイッチを入れた。その後耳を抑えているので、きっと哀ちゃんかコナン君との通信をほんの一瞬切っていたに違いない。
「非常事態だったのよ。そろそろタイミングでしょう? 任せておいて。私を誰だと思っているの?」
哀ちゃんの声でそう言うと、一足早くキッド君は部屋から出て行った。
思ったよりも冷たい唇だった。そうはいっても緊張しているに違いない。
無事に――帰ってきてくれるよね?
閉め切ってない扉の外から、零と哀ちゃんとのやりとりが聞こえてきた。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時