ミステリートレイン13 ページ20
沖矢さんは私の背に密着するように座ったかと思うと、大きな手で私の視界を遮った。
びっくりして、ぎゅっと彼の服を掴んでしまう。
「君が慣れたふりをする必要はない。怖いと言って抱き着いてくれればいい。俺は、君を守るために傍に居る」
何の前触れもなく、赤井秀一の声でそんなこと言うのずるい。
「外を向いたところで、ガラス越しに君の表情は見えている。君は警察関係者でもなんでもない。殺人事件になんて、慣れてなくて当たり前だ。
慣れて欲しいとも思っていない。早く全部終わらせて、君と旅行がしたい。北海道から沖縄まで、案内してくれるんだろう?」
そんな約束をした覚えは一度もない。
でも、「楽しみにしている」なんて耳の傍で甘く囁くから、違うとも言えない。ずるい。
「日本縦断は現実的じゃないから、京都旅行くらいにしておいて。私はシュウとのNY観光、楽しみしている」
「そうだな。君の好きなところに連れて行こう。俺の方は、アメリカ横断でも構わんよ」
誘われるまま彼の方を向き、瞳を閉じたまま唇を重ねた。
「それで、君は誰から聞いた? 俺の変装をしているのが降谷君ではない、と」
私を腕に閉じ込めて動けなくしてから同じ口調でそんなこと聞くの、ずるい。
「――っ。だってそこに安室さんいたじゃん」
「残念だな。時系列に大きな矛盾がある」
これだから、優秀な捜査官は嫌い。細かい矛盾点は気にしなくていいのに。
「キッド君が教えてくれたの。米花百貨店で私が一緒に居た黒服の男とは別人って」
シュウは、はぁ、とため息をついた後、どうやら変声器のスイッチを入れたらしい。
「この列車、怪盗キッドも乗っているのか」口調はシュウだけど声は沖矢さん。
「仕事しているみたいよ。予告状は出てないから、下見なのかもね。時間がなかったし詳しくは聞いてないけど」
「ほぉ、この人目のある列車内のどこでそんな密談をしたのか詳しく聞きたいものですね」
いまいち、シュウが沖矢さんに戻るスイッチがどこにあるのかわからない。そして、「沖矢さん」と私は話が通じ合えそうにない。
「黙秘権を行使します」
――他人の殺人事件より、君が怪盗キッドにさらわれるかどうかの方がずっと心配だ――というと、そっと私の頭を撫でた。
静かにしていたら、外で、がちゃりと音がしたのが耳に飛び込んできた。
「哀ちゃん、待って!」と、蘭ちゃんの声が響く。
沖矢さんは私にしぃと、人差し指を立てて見せると部屋から出て行った。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時