秘密の共有6 ページ34
翌朝、目を覚ました時、人の気配がしてどきっとした。
慌てて掛け布団の上から自分の体を抱きしめて、パジャマを着ていることに気づく。
「おはよう。迎えに来たんだが、君があまりにも気持ちよさそうに眠っているから起こすのがためらわれて」
私の緊張をほぐすためか、ベッドのわきにもたれるように座っていた沖矢さんは、振り向くこともなく、その声すら赤井秀一のものにかえて私にそう言った。
「あ……うん、ありがとう。寝坊したわけじゃ、ないよね?」
そっと手を伸ばすと、ぎゅうと私の良く知っている彼の大きな手が私を包み込んでくれる。
昨夜は零らしからぬ甘い雰囲気に身を任せた結果、間違いなく何も身につけずに眠りに落ちたはずなのに。
だけど、早起きした零が着せてくれた可能性もゼロじゃないし――。万が一にも着せてくれたのがシュウだったら気まずすぎるので、やはり何も言わないのが正解だろう。
「大丈夫。まだ朝の8時を過ぎたところだ」
その声で話してくれるということは、この部屋に盗聴器がないってことだよね。
彼の本当の名前を呼びたくて――でもやっぱりやめることにして、その手を掴んでキスをした。
髪も頬も、【シュウ】じゃない。
「ちゃんと寝てる?」
「心配ない。食事もきちんととっている――ほら、あんまり傾いたら落ちる」
落ちても問題ない高さなのは明白なのに、仕方ないなとようやく彼はこちらを向いてくれた。眼鏡を外し、開いてくれた瞳は間違いなく私の大好きな彼のものだ。
「落ちたら拾ってくれる?」と囁くと、「落とさないから心配しなくていい」と身体を起こし傾いている私の体制を整えてくれるから、それに乗じて抱き着いた。
体温と鼓動は、変わらない。
何を言ったらいいのかわからなくて、口を開くことができなかった。
贅沢なのはわかっている。
わがままなのも知っている。
――生存を明かしてくれただけで十分なはずなのに。別人の姿でも傍に居てくれたらそれでいいはずなのに。
駄目だな、こんな考え方じゃ。
いつまで経っても幸せにはなれそうにない。
くしゃっとシュウが私の頭を撫でて、額にキスをした。
「最初は君に生きていると知っていてもらえるだけで良いと思ってたんだがな。この姿でキスをしたら、怒る?」
なんて聞いてくるから。
そっか、シュウも私と同じ気持ちなんだって思うだけですうっと気持ちが楽になって、私は顔をあげるとそっと彼の唇に自分の唇を押し当てた。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時