留守番2 ページ16
時間はもうすぐ11時だ。
途中までみんなと歩いて引き返してきた私は、ポアロの前でどうしようかと考える……。
ふと、ポアロの中から私を見つめている視線に気が付いた。目が合えば、安室さんはにこりと笑ってくれた。
今から行ってもいいのかな。
でも、視線を逸らせば窓際の席で紅茶片手に本を読んでいる沖矢さんがいる。
何してるの？
とりあえず、毛利邸の合い鍵はあるから掃除だけでもお礼代わりにやってからポアロに行こうかな。沖矢さん、帰るよね？
そう思って、階段をあがれば黒い服を着た人が毛利探偵事務所のドアの前に居た。
「あの、今皆で払っていまして。よければ伝言……！」
言葉途中で突き飛ばされた。黒服の人は階段を一目散に駆け下りていく。
「きゃあっ」と考える前に悲鳴をあげていた。すぐにポアロのドアが開く。
安室さんがすごい勢いで階段を駆け上がってくれる。
「どうした？ケガはない？」安室さんの声に、
「今、不審者が……右の方に走って行った……！ 私は突き飛ばされたけど、多分大丈夫……」
と震える声で伝えるのが精一杯だった。沖矢さんがあがってきて、私の前に身を屈める。
「ちょっと僕、追いかけてきます」
零は安室さんの口調で言うと、階段を飛び降りる勢いで駆け下りていった。
「本当に怪我はない？ 立てる？」と問われても、突き飛ばされた衝撃と恐怖で腰が抜けて立ち上がれない。
差し伸べられた沖矢さんの手をぎゅっと掴むのが精一杯だった。
「ピッキング、してたのかも」と囁けば彼は私から手を離し鍵穴を覗き込む。
「プロの犯行とは言い難いかもな」とぼそりと呟いて、また私の傍へと戻り片膝を床について私の手を掴み、軽々と抱き上げてしまった。
え？抱き上げるの困る。
「だって歩けないでしょう？」といってさっさと階段の下まで連れて行ってくれた。そこで彼の腕から降りてポアロに入る。
人目がなかったのが不幸中の幸いだ、多分。
「――見失ってしまいました――何があったんですか？」そう言って安室さんが帰ってきたのは5分程度たってからだ。
「毛利探偵事務所の前に人が居て、今皆留守だって伝えようとしたら突然突き飛ばされて……。もしかしたらピッキングしてたのかもしれなくて……。マスクにサングラスだったから、全然顔は分からないの」
「それは怖い思いをしましたね。毛利探偵には僕から伝えておきますね。
折角ですから、何か食べていきます？」
あくまでも安室透の口調で零が問う。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年11月8日 10時
