call a spade a spade4―third person― ページ36
この時点で、沖矢にはいくつかの選択肢があったし、彼もそれを認識していた。
キッドを追いかけ盗みを阻止する
ボウヤの行方を捜す
あるいは、FBIに電話をかけ自分以外の力を借りる――?
しかし、そのすべてを捨て沖矢は迷わずAの元へと駆け寄ると、宝物をそっと手に取るように優しい手つきで、ぐったりしている肢体を腕の中に抱き寄せた。
呼吸や脈拍からは、特に何かしらの異常を感じることはできなかった。ただ眠っているだけだと知り、心の中でほっと安堵の息を吐く。
「A――」
今は、口調を沖矢昴のものにしなければ――などという意識は飛んでいた。
当然、周囲に人の気配がまるで感じなかったから――と、理由付けをすることは簡単だ。
けれども、それだけではない。
沖矢が心の奥が千々にかき乱される、という感覚に襲われたのはAが飛び降りて――いや、実際は轢き逃げの被害者となり――病院に入院し、目覚めるかどうかわからないと聞かされたあの時以来。
君が目を開いて言葉を発したとき、俺がどれほどうれしかったかわかるだろうか。
もうこんな想いは絶対に嫌だと思ったのに、どうしてこんなにすぐに――
ただ、愛する人の傍に居て楽しく穏やかに暮らしたいだけなのに、沖矢の抱くそんなささやかな願いはいつも簡単に破壊されていく。
積み上げてはすぐに壊される、砂上の城を追い求め続けているだけなのだろうか。
そもそも、最初に沖矢昴としてAに声をかけたところから間違っていたのかもしれない。
「A」
沖矢は愛しい人の名前を、彼女に耳元で幾度もささやく。ただ、その瞳を開けてほしくて。
『君が元気で笑っていられるなら、俺は傍に居なくてもいいから――』
そう、思いながら。
call a spade a spade5―third person―→←call a spade a spade3ーthird person―
81人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年5月19日 15時