夏祭り2 ページ9
「昴さん、帰る?」
昴さんは本当に私に合わせて浴衣を着てくれているので、一切声を出さない。
不便では?と思うのだが、笑顔で首を横に振っているので、どうやらまだ帰るつもりはないらしい。
――一応念のため、マスク型の変声機も持ってきてないわけではないけれど、必要ない限りつけたくないというこだわりぶりだ。
まあ、声を出さなくても綿菓子を購入できるくらいだから(私は別に綿菓子を食べたいとか言ってないよ? 懐かしいなって少し視線を投げただけで)、特に不便もないのかもしれない。
「どうぞ」と唇の動きだけで渡された綿菓子にかじりつく。
記憶よりずっと、甘ったるく感じる綿菓子に目を丸くする。
「昴さん、これ、食べて。美味しいよ?」
甘いものをさほど好まない彼の口に、砂糖の塊でしかない綿菓子を一口大にちぎって放り込む。そのまま食べて口の周りがべたついたら大変だし。
もっと表情を崩してくれるかと思ったのに、予想外にポーカーフェイスでびっくりした。
「いたずらを仕掛けるならもっとうまくやらないと」
耳元に『彼本来の声』でそう囁かれたので、絶対に次に渡すコーヒーはブラックを装いつつ砂糖を入れて出してみようと心に決める。
「あーあ、本当に昴さんに彼女できたんだ」
ものすごくぶしつけにそんな言葉が降ってきたのはその直後だった。
振り向けば、浴衣姿の蘭ちゃんと一緒に、同じく浴衣姿を纏った鈴木園子ちゃんが歩いてきていた。
園子ちゃんとは何度か、ポアロで顔を合わせたことがある程度で、会話を交わしたことはあまりない。
「ちょっと、園子。失礼だよ? Aさん、すみません」
「蘭ちゃん、久しぶり。
園子ちゃん、こんにちは」
「――あれ? 知り合い?」
「ほら、コナン君と同じ苗字の江戸川Aさん。昴さんと同じ東都大学に通っているって話、ポアロでしたでしょうー?」
「ああ、そういえばそうだったかも。そっかー、同じ大学なのかー」
「あれ? 園子ちゃんも素敵な彼氏ができたって言ってなかったっけ?」
「それはそれ、これはこれなんです!イケメンは皆の共有財産ですよ?」
こんにちはー、と園子ちゃんは昴さんに手を振るが、もちろん彼は手を振り返すだけで声を出さない。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月1日 15時