夏祭り9 ページ16
「悪い人の見本みたいなのに会わせて悪かった。
――帰ろう」
昴さんは私の手を取ると、くるりと踵を返す。
英語で言ってくるあたり、このセリフをJにも聞かせたいということがわかる。
「おい、俺をここに呼びつけておいてそれはないだろう。
とりあえず、飯を食わせろ!」
後ろから声が降ってきた。
「俺は呼びつけてないがな。
どこで認識が変わったんだよ。
お前がここに来ないと作業できないって言ったから付き合ってるだけで。
――はいはい。何が食べたい? 和食か? それとも、ハンバーガー?」
「テンプラ。日本で食べると味が違うって、アンドレが言ってたって、聞いたから。あと本場のライスが食べてみたい。日本から帰国した奴がよく、『ライスがうまい』っていってるの、マジで意味が分からないからな」
昴さんは一向に立ち止まらないが、Jは気にすることなく軽口を叩きながらついてくる。
「お前の味覚じゃ何食べたって同じだろ?」昴さんが肩をすくめる。
「それ、お前にだけは言われたくねーわ。だいたいなぁ……」
じゃれあうようにテンポ良く軽口を叩きあう二人を見ながら、ああ、本当に「赤井秀一」が存在して、FBIに勤務していて、その折には彼にもきちんと頼りにできる人がいたんだな、と、私はどこか嬉しくなった。
だから、その日三人でわいわい言いながら食事をした後、そのビルから偶然遠くに見えた美しい花火のことは、きっと忘れないと思う。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月1日 15時