モーニングコーヒー7 ページ47
ダイニングテーブルには今日の新聞が置いてあった。
「わあ、昨日の怪盗キッドのこと、こんなに大々的に出ているのね」
新聞の一面を飾っているのだから、すごい宣伝効果があるのだろう。
「気になるなら見に行ってきたらどうだ?」
器用にリンゴを剥きながら、秀一が言う。
「本当に? 秀一も行く?」
「いや、俺はやめておこう。どうもあの青年は苦手でね」
「怪盗キッドと何かあったの?」
そんな新聞トップを飾るような怪盗とどんな関係があるっていうの?
「沖矢昴に変装された」
つまらなそうに言い捨てる。これはあまり、深く聞かない方が良さそうね――。
「だから、今日そこに俺は絶対に足を踏み入れない。
でも、ボウヤに言えば君一人くらい簡単に入れてくれると思うが。
どうする?」
「でも、秀一は家にいるんだよね?」
退屈じゃないのかな――?
彼はむいたリンゴを切り分けてわざわざ私の口元まで運んでくれた。
「もちろん、Aが家にいてくれるならそれはそれでとびっきり素敵な一日にしてあげるけど?」
ぞくっとするほどの色気を含んだ声が、私を誘う。
絶対に朝の9時台に見せていい表情と声じゃないと思う。それ――
「――じゃあ、やっぱり、今日は行ってこようかな」
私は彼の指が私の唇に触れる前に、そっと押しとどめてリンゴを咀嚼し飲み込んだ後そういった。
「楽しんでおいで。そして、絶対ここに戻ってこい」
ああ、なんて幸せなんだろう。
こんなに素敵な人がここで私の帰りを待っていてくれるなんて。
私はとびきりの笑顔で彼に抱き着いた。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時