愛しい恋人3―赤井side― ページ40
ドライブの途中に眠ってしまうのは、Aの癖だ。
幸せそうに眠っている彼女を見ると、いっそこのまま目覚めないのも幸せなのでは――と物騒な気持ちが頭をよぎる。
そうはいっても、俺に心を許すまでは絶対に眠らなかったので、記憶喪失後再び信頼を取り戻したと確信して良いのだろう。
そんなことを口にしたらAは、「自信過剰!」とクレームを入れてくるに違いないが。
過剰ではない、身の丈に合った根拠のある自信だ。
途中のコンビニで止まって缶コーヒーを飲む。ついでに、彼女の荷物を探ると、ボウヤがメールで触れていた証拠写真が出てきた。
それは、俺が手に入れた写真とは違う時点、違う角度から撮影されたものだった。
なるほど、本当は男の子を助けた後――誰かが彼女をあのビルの近くに、放置したということか。
転落――いや、飛び降りたのだと思いこんだのは短絡的だった。
早いうちにビルを見に行けばAが「飛び降りなかった」という証拠が見つかったのだろう。しかし、先がどうなるかわからない彼女を放ってビルを見に行く気になれなかった。
いや、違うかもしれない。
決めつけていたのだ。「彼女は傷ついた結果、自らの意志で飛び降りた」と。
米花町は日本では珍しいほど事件が多いため、警察は日々忙しい。
そんなこともあり、警察の目にも止まらず事件にならなかった話をわざわざ蒸し返す気がしなくて、放置していたのは俺のミスだ。
――これは、轢き逃げ事故を隠蔽したい誰かが、わざわざAを移動させて、偽装したという動かぬ証拠。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時