0003 keigo ページ3
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「…は?」
「あ、時間やば。またね純喜くん!」
「いや、おい、景瑚!」
俺を呼び止める純喜くんを無視して、廊下の角を曲がるまで走った。そこで息を整えて、ゆっくり階段を降りる。
そりゃあ驚くよね。俺がAを好きなんてきっと寝耳に水だっただろうし、俺だって言うつもりなかったし。でも、言わなきゃいけなかった。俺の気持ちを純喜くんに伝えたところで変わることないかもしれない。それでも、俺の気持ちを彼が知れば、何か起こるんじゃないかって、淡い期待。
純喜くんが中学を卒業する時。当たり前に純喜くんの第二ボタンは争奪戦で、でも純喜くんは誰にもあげなかった。
「喧嘩になるならあげん方がマシやん?」
自慢でもなんでもない、純喜くんは心からそう思ってたんだと思う。その時のAの顔が、今でも俺は忘れられない。
私も欲しい。私にだけ、欲しい。
言葉にしなくても、わかってしまった。Aは、純喜くんが好きなんだ。
「景瑚おかえり。綺麗に付いたね。」
「純喜くん器用だから助かった。」
「うちらが不器用みたいな言い方〜」
席について、はるかの前に座る。Aの席は少し遠くて、その姿を斜め後ろからぼんやりと見つめた。
あいつも、あいつも、あいつも。
みんなAを見てる。そりゃそうだよ、可愛いし。話せばもっと可愛いのを知っているから、怖くなる。
ライバルが増えませんように。
「A、可愛いよね。羨ましい。」
俺の視線に気づいたのか、はぁーっとため息をつきながらはるかもまたAに視線を向けた。
「はるかも可愛いじゃん、性格が悪いだけで。」
「あんたほんっと、一言余計なんだよね」
叩かれそうになるのを笑いながら避けると、タイミングよく担任であろう人が教壇に立った。
"体育館行くぞー"
ざわざわとした教室の中で発せられたその声に、約30人ほどの生徒が一斉に席を立つ。
もう一度Aに視線を向けると、Aも同じように俺を見てにっこり笑う。
「(花、似合うね)」
口パクとジェスチャーで伝えられたその言葉に、俺も笑ってグーサインを返した。
幼馴染みって、いいけどさ。それでもやっぱり、誰よりも何よりも特別になりたい。そう思ってしまう俺は、欲張りなのかな。
to be continued...
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作者名:マツ子 | 作成日時:2022年10月1日 1時