冨岡義勇(羽糸) ページ26
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──カシャン
プラスチックの擦れる音と、バネの音が混ざったような音を耳元で感じた瞬間のことだった。
痛い、というよりも衝撃の方が大きかった。
✳︎
遡ること2時間ほど前。
『そういえば、冨岡くんってお酒飲まないの?』
「飲めないことはないな」
2年近くも共に働いてきて、初めて帰りが一緒になった冨岡くんと、なり行き的に一緒に帰っていた。まともに会話をしたのもこれが初めてだったと思う。
ぽつ、ぽつ、と降りはじめの雨のような会話は案外気楽なもので、このまま2人で飲もうと話がまとまるのはごく自然な流れだった。冨岡くんの家で宅飲みをすることにしたのはどちらの提案だったか──大学は違えど意外にも近所に住んでいた私たちは駅前のモールで買い物をすることにした。
地上階に登るエスカレーターに乗っていると、買い物袋をぶら下げて前に立っていた冨岡くんが振り返った。
「3階に寄っても?」
『いいけど、どうしたの?』
「ちょうど本屋があるから、参考書を買いたい」
『いいよ。時間はたっぷりあるし』
すぐ終わる、と言い残して、冨岡くんは足早に書店へ入って行った。買い物袋は頑なに私に持たせてはくれなかった。
手持ち無沙汰の私は、書店の向かいにある雑貨屋を見て待つことにした。なるべくすぐ見つけてもらえるように、店の奥には入らず、店先に飾られたアクセサリーを眺める。可愛いな、と思って手にしたピアスは2,800円。バイト先の飲み放題コースの方が幾分安い。買いたいものを諦める時の常套句のようにそんなことを考えながら、ピアスを元に戻すと、いつからいたのか冨岡くんは私のすぐ隣に立っていた。
『あ、ごめん気付かなかった…』
「今来たところ。それ、買わないのか」
『うん…見てただけだし、それにほら、私そもそもピアスの穴開いてないから』
「…そうか」
似合いそうなのにな───
呟くように言われた一言に心は大きく揺れた。
『本当はさ、開けたいんだけどね。病院だと高いし、自分で開ける勇気もなくてさ』
「自分で…?」
冨岡くんがこんなに表情を変えたのを初めて見た。
目を大きく見開いて、少し困惑したような──少し新鮮な表情。
『そう。これで開けるんだよ。ピアッサーってやつ』
ピアスコーナーの横に売られていたピアッサーを指さすと、冨岡くんはそれを物珍しそうに手に取った。パッケージをひっくり返し、説明書部分を読む姿に、私は閃いた。
『ねぇ、冨岡くんに一生のお願いしてもいい?』
「とりあえず聞く」
『あのね…────』
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ユリア(プロフ) - ねぇえええええまって私も聞いてない久々ツク開いたらなんなのこれ何で呼んでくれな(死) (2022年11月1日 22時) (レス) id: 5f1067fe3a (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - みおさん» ありがとうございます💖もう少し更新続きますので楽しんで頂ければ嬉しいです💖感謝ァ! (2022年9月25日 20時) (レス) id: 9cf14e7eab (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - あさひゆうひさん» あさひの新作通知もずっと待ってる!待ちすぎて舞ってる💃唯梨さんの実弥読めて私も嬉しかったよ!爆速過ぎて吹いたけどね!笑 いつも感謝ァ! (2022年9月25日 20時) (レス) id: 9cf14e7eab (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - みんなお祝いコメントありがとうっっっ🥰❤️もう書かねェ…!って思ってたけどみんなのおかげで創作意欲が湧きました!今後ともよろおねでっすー💁🏻♀️❤️❤️ (2022年9月25日 18時) (レス) id: e4ce53ad81 (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - 奏海さん» かなみちゃんありがとうね🥰❤️色々落ち着いて戻ってきちゃった🧡🧡🧡🧡 (2022年9月25日 18時) (レス) id: e4ce53ad81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:京華/唯梨/羽糸/ひよ/あさひ x他4人 | 作者ホームページ:ありません
作成日時:2022年9月21日 11時