9 - 2 彷徨う心 ページ17
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さて、どうするか。
廊下をひとり歩く、真っ昼間。
大きな欠伸をふかせて。
泉とAは居ないというし。
加えてこの状態では誰と話すのも面倒。
レッスンも出来ない。
欠伸をして、何となく音楽室に入る。
誰もいない、でも、窓は開いていて、カーテンがぶわっと内側に舞う。
薄暗い空間に、また欠伸。
でも、何故か寝ようとも思えず、ピアノの椅子に座る。
鍵盤に触れて、音を鳴らした。
心地好く、それは肌をすべる。
「…」
頭の中で一枚の楽譜を浮かべ、弾く。
ピアノの前奏から入る、自分のソロ曲に”なる予定のもの”。
今じゃ、作った奴もこの曲を知らない。
何か少し、悲しくなった。
あの楽しい記憶を、”繰り返していると実感のない者”は覚えていない。
どうせまた、同じように季節が巡れば来るけど。
来るんだけれど。
不意に大きな音がして、反射的に目を向けた。
はたりと音も止まった。
そこには、扉に隠れたような、Aの姿。
「………」
「………」
何故か、にらめっこ。
何も話さず、だからといって互いに一歩も動かず、引かず。
「…凛月」
名前を呼んだかと思えば、Aはじっと、ただ見てくるだけ。
『どうしたの』と口を動かしたって、声は出ない。
外の音だけが聞こえる。
「……本当に喋らない」
そう言って、Aは歩み寄ってきて
そして、座ったままの俺に顔を寄せて。
「……なんで?
…昨日のこと怒ってるの?
……怒ってるなら、謝るから、話してよ、お願いだから」
思わず、身を引いた。
あのAが、笑いもしない。
触れてきた手が、震えている。
「…私、凛月をそんなに追い詰めてたの?
凛月をいっぱい傷付けてた?」
揺れた瞳からぼろっと、大粒の滴が落ちる。
目を見開いた。
そんな涙、見たことも無かったから。
そしてこんな時に限って、声が出ない。
初めて悔やんだ。
「…どうすればいい
私のせいで、凛月が」
ぼろぼろと、取り留めもなく溢れてきた。
へたりこんだAを目の前に、手を出しては引っ込めて。
どうしようもなくなって、その頭を撫でる。
すると更に涙は溢れてきて、ぎょっと手を離す。
でもAの手が伸びてきて、その手を掴んだ。
互いの手の温もりに、小さな嗚咽。
暫くずっと、2人きりだった。
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まひる(プロフ) - 雪羅さん» ありがとうございます…!!妄想のままに描いているので賛否両論あると思いますが…(^-^; そういっていただけると嬉しいですー!(*´ω`)ありがとうございます(*’ー’*)ノ (2019年10月13日 11時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
雪羅(プロフ) - 前からこの作品見続けています!繊細で綺麗な表現とか、儚い世界観とか、謎の多いキャラクターとか、すごく作り込まれていてまるでドラマを見ているようでした!これからも頑張ってください! (2019年10月13日 9時) (レス) id: 227c03626a (このIDを非表示/違反報告)
まひる(プロフ) - ありまさん» ありがとうございます…!そういったコメント頂けると、嬉しいです(*^-^*) (2019年10月9日 22時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
ありま(プロフ) - この作品の雰囲気がとても好きです。 (2019年10月9日 21時) (レス) id: ef20a5c3d2 (このIDを非表示/違反報告)
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