二話 ページ4
A視点
汗が頬を伝い滴り落ちる。
俺は暫く呆然として水面に映るその姿を眺めた後、見間違えたかと思い何度も角度を変えたりして覗き込む。
が、何度覗き込んでも映る者は同じだ。
鶯色の髪と瞳を持ったいっそ冷たさを感じさせるほどの美女が、無機物の如き全くの無表情で俺を覗き返してくる。
もしやと思い俺の頬に触れてみるが、俺も感情が一周回って表に出て来なくなってしまったのかピクリとも表情筋が動かなかった。
俺はその場にへたり込む。情けなくも腰を抜かしてしまったのだ。
然し、俺の頭は考え続ける。
鶯丸。
姉が引く程ドはまりしていたブラウザゲーム、刀剣乱舞のキャラクター。
俺は姉にそのゲームの萌える所とかを画像付きでご丁寧に説明されたせいで、一寸ハマった程度の奴より刀剣乱舞に詳しくなってしまった。
だから、間違いない。間違える筈が無い。
俺は、鶯丸になっている。
それも如何云う訳か、本来ならば男であるべき筈なのが、女となった鶯丸に。
手を見た。
武骨で骨ばっていて、この夏に海に云った所為で小麦色にこんがり焼けていた筈の腕。
その腕は、粉雪の如き白さを持った華奢ですらりとした柔い女性特有の腕になっていた。
胴を見た。
大きくたわわに実るその胸は服を千切れんばかりに膨らませ、そのくせ腹は細くくびれていた。
一応服の上から股の間を触ってみるが、矢張りそこにあった筈の物は無い。
喉が引き攣る。口の中が妙に乾いた。目の前が暗くなる。
言葉も出ない、とは此の事だろう。
本当に驚いた時は目の前が真っ暗になると云うが、正にその通りだった。
そして俺が何より驚いたのは、その綺麗な顔に見ている此方が痛くなってくるような見事な青い痣が出来ていたことだ。
それも、俺がちゃんと俺の見た目だった時に、兄貴との喧嘩で付いた場所に。
俺に付いていた痣が、傷が、この鶯丸にも付いている。
俺はもしやと思い、服の襟を引っ張って首元の肌を見る。
赤い点が、噛み傷が、打撲痕が、白い肌にくっきりと残っている。
余りに常識からかけ離れた出来事が立て続けに起きた所為か。
泣きそうになる俺の感情なんぞ全く関係ないとばかりに。
無機物を思わせる程に一切の感情の揺らぎを感じさせないその表情だけは、無のまま全く変わらなかった。
そして、乾いた口から弱弱しく否定の声が漏れるのと同時。
がさり、じゃり。
後ろで草と土を踏みつける音が響いた。
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リオン♛ - 四十話の仕組み凄いですね❗ (2022年7月28日 9時) (レス) @page43 id: b70e4d72d6 (このIDを非表示/違反報告)
梨の子(プロフ) - 今更ですけど青くして調べるって押したら出てきましたよ!! (2021年7月23日 10時) (レス) id: 52f349caa9 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐教信者(サブ垢)(プロフ) - 彼岸花さん» あれ?なんででしょう……? (2018年10月24日 16時) (レス) id: 787e58ff6d (このIDを非表示/違反報告)
彼岸花(プロフ) - 四十話の文字を選択で青くしても見れませんでした… (2018年10月24日 3時) (レス) id: da7e05a086 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐教信者(サブ垢)(プロフ) - 阿国さん» いえいえ、こちらこそこの作品をご愛読下さり有難う御座います! (2018年10月11日 19時) (レス) id: 787e58ff6d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆腐教信者 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年9月15日 19時