02 : 息苦しい ページ3
・
あの時どうして話してしまったのだろう、とか。
そんな後悔、してもし足りない。
でも、そんな後悔が頭をよぎる度に溺れていくのだ。
そんな危うい魅力を持つのが彼女なのだと、俺はもう とうに知ってしまっていた。
▽
中でピアノを弾く彼女の堂々とした佇まいに思わずドアノブを握る手に力が入ってしまった。
まずい、と思った時にはもう遅い。俺が握っていたドアノブはあっさりと俺の手元を離れていき、ドアはキィ、と嫌な音を立てて開いてしまった。
軽快なピアノ音が途端に止まって、何故だか惜しいような気がしてならなかった。
彼女の視線と交わり、まるで海のように深い、大きな蒼色の瞳が更に大きく見開かれる。
思えば、何故今の今まで音楽室に入る事を躊躇っていたのだろう。
今更そんな疑問が俺の中を駆け巡って、無性に腹が立った。
暫しの沈黙の後、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「見られちゃった？恥ずかしいなぁ、もう」
その声には、重苦しい沈黙を打開しようとの意図が含まれたような、そんな不自然な明るさがあった。
俺は何も言わない。こんな時に限って喉がカラカラに乾いて声が出ないのだった。
そんな俺を見て彼女は困ったように眉を下げてはにかんでみせた。何処と無く悲哀のこもったその笑顔はまるで造り物のようで、胸がきゅぅ、と締め付けられた。
彼女の笑顔を見ていると、
悪いことをしたような、そんな後ろめたさが残るのは何故だろう。
「それ、ここに置くの？」
気まずくなったその場の沈黙を破ったのは、またしても彼女だった。俺の右手に握られた書類を指しながら小首を傾げるその姿はやっぱり何処か演技のようで、やはり俺は気管を遮られたような気になる。
すっかりペースを乱された俺は彼女が指差した書類を見て漸くここに来た理由を思い出す。
「あぁ」
やっとの事で絞り出したその声は掠れてしまっていたが、彼女は聞き取れたようで、声を出した俺に驚きつつも安堵している様だった。
指定された場所に書類を置く。
本来ならこれで帰っていい筈なのだが、俺はそこから動けずにいた。
「ねえ、名前。なんて言うの？」
置いた書類に視線を落としていると、後ろから鈴の音のような透き通った声がして振り返る。
俺は先程とは違い、いつもの低い、よく通った声で自分の名前を紡ぐ。
「爆豪勝己」
俺の名前を聞いた彼女は、小さく口の中で俺の名前を反諾した。
「ねえ、勝己くん。ちょっと聞いててよ、私の演奏」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 29人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りこ(プロフ) - 、さん» 外し忘れておりました。大変申し訳ございません。 (2018年2月14日 8時) (
レス) id: 40f7ee34c3 (このIDを非表示/違反報告)
、 - オリジナルフラグ外して下さい (2018年2月14日 1時) (レス) id: 6903784267 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りこ | 作成日時：2018年2月14日 1時
