２４ ページ24
.
LHRを終えた放課後、わたしは軽い足取りで屋上へと向かっていた。
右手にはシャオロンくんの連絡先が書かれたメモと、この前のお詫びだと渡された小さな袋を握っている。
これから鬱さんに会いに行くというのに、心なしか気持ちまで軽い。
…それほど、手中のものには価値があるのだ。
屋上への階段を踏みしめ、重たいスチールの製の扉を開く。
隙間から吹き込んでくる夏風が、じっとりとした重いものではなく、爽やかな空気だと気付いたわたしは、何故か酷く安堵した。
放課後とはいえ、日の長い夏である、まだまだ陽差しが強く、屋上は昼間と変わらない程明るい。
「…あ、鬱さん。ほんとうに来てくれたんですね。」
「……はぁ、来いって言ったんお前やん。っていうか、さらっと屋上言うから来たけどここ、立ち入り禁止やんけ。」
「あ、ごめんなさい。つい、いつも入り浸ってるから。」
「生徒会役員の前で堂々と校則違反するんかいな。清楚、優等生、いいこちゃんのイメージあったけど違うんか。」
清楚、優等生、いいこちゃん。
どれも生きてきた十何年間で言われたことのない言葉達だった。
誰もわたしを見ないから、どれだけいいこにしても、わるいことをしても気付かれないから。
そんな言葉たちにとても驚いたのだ。
鬱さんは自分と数回しか会ったことがないはずのに、透明人間のわたしを認識してくれたのだ。
だから彼が口を尖らせ、延々とわたしの悪口を言おうと、わたしは笑顔になる一方だ。
それに気付いた鬱さんはぎょっとしたようにこちらを見遣った。
「え…おま、なんで笑とんねん。俺、ずっとお前の悪口言っててんぞ。」
「…え、あ、いえ、鬱さんって人のことをよく見ていらっしゃるんだなあ、って。」
「はあ、まあ。俺は無能やからな、嫌われへんように人の顔色伺って生きていくので精一杯やねん。お前には分からんやろな。」
そっぽを向いてため息を吐く、彼の綺麗な顔を、きっとわたしは不機嫌な形でしか見れないのだろう。
随分と歪められた表情を見て、わたしは彼の手を引く。
陽射しに照らされ、透けてしまいそうなほど儚い彼を、日陰に連れ込んだ。
「……なんやねん。」
「…わたし、シャオロンくんのことがすきなんです。」
驚いたように目を開き、すぐさまその瞳に寂しさの色を翳らせる。
そんな彼から目を離すことは出来なかった。
…それと同時に、初めてシャオロンくんへの感情を自覚した瞬間だった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 936人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
。ﾏﾙ(プロフ) - 星空さん» コメントありがとうございます◎わ〜とてもうれしいです！たくさんきゅんを摂取していってくださいね！ゆっくりにはなりますが、更新の方頑張りますので、ゆるっと応援お願いします。 (2020年8月20日 6時) (
レス) id: 67fc3fdd24 (このIDを非表示/違反報告)
星空(プロフ) - もうめっちゃ心臓がキュンってします……！！好きですありがとうございます(((o(*ﾟ▽ﾟ*)o)))私もこんな青春したい(´；ω；｀)この小説でドキドキ摂取してます(？)これからも無理せずに更新頑張ってください！応援してます！ (2020年8月19日 3時) (レス) id: df42e0e9d5 (このIDを非表示/違反報告)
。ﾏﾙ(プロフ) - デデドン！さん» コメントありがとうございます◎ゆるゆるになりますがこれからもがんばります…！ (2020年8月13日 22時) (レス) id: 67fc3fdd24 (このIDを非表示/違反報告)
。ﾏﾙ(プロフ) - トドルゴンさん» コメントありがとうございます◎ほんとうですかうれしいです〜！(T . T)きっと心臓きゅって掴んだまま離しません！どうか引き続きよろしくお願いします。 (2020年8月13日 22時) (レス) id: 67fc3fdd24 (このIDを非表示/違反報告)
デデドン！ - めちゃくちゃ文が綺麗で好きです、、これからも頑張ってください！ちゅっ！！ (2020年8月13日 21時) (レス) id: 2c8648c87a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
