ドヨルは洒落めいた３ ページ7
キッチンには立ち入り禁止！と言わんばかりに食材と調理器具が広げられていたので、そそくさと退散する。増田さんにソファーを勧め、とりあえず麦茶を出しておく。
「毎日シゲのご飯？」
「基本はそうですね」
「幸せそうに言うねー」
そうなのだ。成亮の料理が美味しくなかったことはほとんどない。事実、毎日あんな美味しいご飯を食べられて幸せである。
つめたー、と麦茶を飲んで顰めっ面をしている増田さん。今日も奇抜なファッションは健在で、ハーフパンツから膝がこちらをのぞいている。
「シゲがAちゃんと同棲してるの不思議なんだよね」
「どうしてですか？」
「一人で生きていけそうじゃん、シゲって」
「それは否めませんね」
私がいなくてもこの人は生活できるんだろうなと思う場面はたくさんある。掃除や洗濯は私が担っているけれど、別に苦手じゃないだろうし人並みにはこなせるはずだ。
だけど、同棲の提案をしてきたのは紛れもなく彼だった。いちいちお互いの家行くの面倒だーとか、Aも会社近くなっていいだろーとか、なんとか言われて納得したのだ。
「私といたいというよりは、利便性を考慮してなんじゃないかなって思ってます」
「利便性？」
「だって、」
「Aちょっとこれ手伝って」
「ああ、うん？」
さっきあげた口実を話そうとしたらキッチンからお呼び出しされてしまった。増田さんに断りを入れて、キッチンに向かう。カウンターに並べられていたのは、食べやすい大きさにスライスされたバゲットと、ボウルにどっさり入ったカットトマトだった。
「これバゲットに乗せてブルスケッタにして」
「……おしゃれだ」
「A様のご所望とあらば」
「何その口調」
ハハハハ、と豪快に笑いながら手元ではタラに衣をつけている。メインディッシュはフライだろうか。
指示されたようにバゲットにトマトを乗せていく。自炊でブルスケッタなんて作ったの初めてだ……というか外でもあまり食べない。トマトにはオリーブオイルで艶が施されていて、少し胡椒の香りもする。バゲットにはニンニクが塗ってあるのか、こちらも食欲をそそる。
「それ5切れぐらいできたらこのタッパーに入れて」
「タッパー？」
おしゃれなディナーには不釣り合いな単語。タッパーなんて実家でおかず持たされる時か作り置きのご飯入れる時にしか使わないよ？
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作者名：あやめ | 作成日時：2021年6月11日 18時
