胃袋は掴まれた (ページ11)

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十二は越えられた１ページ11

明日もゆっくりできるね〜と夜長にうだうだしながら、忙しなく動く彼を眺めていた。休みの日の方がよく動く成亮。疲れないのだろうか。疲れてるな。

彼の仕事用のスマホが着信を知らせた。バタバタと動き回っていた成亮の足がぴたりと止まる。すごい気難しそうな顔。土曜の夜に仕事の電話が鳴るなんてそりゃあ嫌な顔もするか。

電話口の口調の感じからして親しい上司なのだろう。えー、とかはあ、とかちょっとめんどくさそうな気持ちが返事の端々から顔を出している。最後にわかりました、とわかってなさそうな返事をしていた。

「どうしたの」
「明日急遽出勤することになった」
「あれま」
「さすがに行きたくねー」

明日休みのつもりで動いてたから計算狂った…と溜息をついている。仕事に行きたくないわけではないらしい。毎日仕事行きたくないと内心駄々をこねまくっている私からしたらすごい人だ。

「なんかイレギュラー？」
「明日出勤予定だった小山が熱出したんだってさ」
「それはそれは」
「社員で出られんの俺だけらしいから」
「仕方のない話だ」

小山今度なんか奢らせよ、とボヤきながらパソコンを立ち上げている。きっとなんかよくわからないけど仕事のメールでも入れるんだろう。

そうなると明日は私一人で過ごすことになる。ダメ人間代表なので一日中ゴロゴロしてたって日は暮れるし、何にも苦ではないけれど、なんとなく手持ち無沙汰な感じはする。

「明日って買い物行った方がいい？」
「あー、そうだな……今日行けばよかった」
「私行ってくるよ」
「本当？じゃあ頼もうかな」

作業が終わったらしい彼は冷蔵庫を開け、手元のスマホに何か入力を始めた。買ってくるものリストを作成中といったところか。まるでおつかいを頼むママと頼まれる娘だ。恋人なんだけど、おかしいな。

「明日の夕飯、頼んでもいい？」
「ご希望に添えるかわかんないけど」
「Aが料理できること俺知ってるよ」
「成亮ほどじゃないよ」

あなたみたいな味も彩りも完璧な料理なんぞ作れない。それでもいいというのなら久しぶりに成亮のためにキッチンに立とうじゃないか。

「じゃあ私がメニュー考えてもいい？」
「うん、でもひとつだけ」
「何？」
「アサリ使ってくれない？残ってんの」
「了解」

アサリを使った料理……お味噌汁かパスタしか浮かんでないけど何にしましょうか。