胃袋は掴まれた (ページ2)

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和はみだされた２ページ2

最近思い立って短くした髪はものの数分で乾いてしまった。熱風を浴びる時間が短くて助かる。こないだ美容院でもらったヘアオイルを馴染ませると、爽やかな香りが洗面所に充満した。

気分がさらに上向きになったところで、キッチンを覗くともう出来上がりそうな気配。最近買い換えた冷蔵庫を開けて中を物色する。今日まとめ買いしてきたのだろう、所狭しと食材が詰まっている。

「お父さん麦茶でいい？」
「俺お父さんになった覚えないけど」
「麦茶にしまーす」
「シカト？まあいいや、できたよ」

カウンターに置かれていたのは、十五穀米とキノコがたくさん入ったお味噌汁。それをテーブルに運んで、ついでに箸も並べる。麦茶も用意したしもう座っていいかしら？

「これメインね」
「おお、おいしそう」

成亮が持ってきた平皿には白身魚が鎮座していた。何やら香ばしい匂いがする。西京漬けみたいな匂い。絶対美味しいやつだ。脇にはかぼちゃの煮付けも添えられている。

向かいに成亮も座り、2人で手を合わせる。20時を少し過ぎたからお腹はすっかり空いている。空腹が最高の調味料とはよく言ったものだと思う。

「この魚、何に漬けたの」
「食べてみ？たぶんわかる」

少々自信ありげな顔にわくわくしながら、魚を一切れ口に運ぶ。ふんわりとした爽やかな香りが鼻を抜けていく。これはきっと。

「柚子だ」
「正解、カジキの柚子味噌漬け」
「すごく私好みの味」
「そりゃ良かった」

きっと成亮は私が無類の柚子好きだって知ってる。柚子胡椒をこよなく愛していることも、冬至には必ず柚子風呂に入ることも、使っているハンドクリームが柚子フレーバーなのも知ってるんだから。彼氏として満点すぎる。そしてご飯が美味い。

きのこの味噌汁も程よく甘く味がつけられていて、きのこの旨味がぐぐっと上がっている。この味噌ってもしかしてお土産でもらったというあの豆味噌かしら。数種類入っているきのこの弾力や風味までも殺すことなく、味噌汁にいなくてはならない存在にしている。

「これレパートリーに加えるの決定だわ」
「本当美味しいご飯をありがとうね、いつも」
「なに急に改まって」
「新しいの増えるたびに言ってるよ」
「そうだっけ？」

あれ？いつも言うようにしてるんだけど、もしかしてあまり刺さってない？おかしいなあ。まあ今日ばかりは許しておこう。