プロローグ ページ1
この街から明かりが消えることはない。
昼は勿論、太陽という自然の恩恵を受けているが、夜は人々が談笑し、騒ぎ、エスカレートすると乱闘が起こる。
そんなイカれた奴らが多いこの街に、静かな場所なんてほんの一握りしかない。
カラン、という音が一つ。
「いらっしゃい」
フラフラと入ってきたのは、いかにも疲れている、といった顔の婦人。顔なんてみなくてもわかるさ。何せこの仕事を何年、何十年とやってきているからね。
「静かな空間をお求めなら、そこのカウンターにどうぞ。オーダーは受け付けてないよ。してもいいけど出てくるのは水道水か井戸水のどちらかだ」
「………願いを叶えてくれるって聞いたの」
「へぇ。そりゃ私も聞きたいくらいだ。願いを叶えてくれんなら、私も叶えてほしいな」
「この店の主人が何でも願いを叶えてくれるって聞いたの」
「そうかい」
煙草に火を点け、煙を吐きだした。別に吸いたくなったわけではない。ただのかっこつけだ。
このほうが様になるってドラマとかでも見たからね。
「ここの店主を出してほしいの」
「んで、あんたは何すんだ？」
「願いを叶えてもらうの」
「あんたの願いってのは？」
「別に貴方に言う義理はないでしょ？いいから店主を出して頂戴。もう限界なの」
煙草を灰皿に無理矢理押し付けて、手元にあったグラスを掴んで一気に飲んだ。
残念ながら様になるのは良いが、煙草は苦手だしグラスの中身は水道水だ。
「残念。私が店主だ」
冗談めかしく言うと、婦人はきょとんとした顔になった。数秒の硬直があった後、諦めたような顔をした。これは心外だ。
「じゃあ、貴方に願いを言えば叶えてくれるの？」
「勿論タダとはいかないが、ちょっとこの書類にサインしてもらうだけでいいのさ」
机の引き出しから一枚の紙とボールペンを取りだし、婦人に差し出した。
「それにサインすればいいだけ。で、あんたの願いは？」
「………旦那を消してほしいの」
「そう。じゃあ、あんたの名前そこに書きな」
「本当に旦那を消してくれるのね？」
「当然。契約してくれたら」
婦人は紙に名前を書き始めた。
「契約成立」
「これでほんと………ッ！？」
「はい、お疲れ様でした」
少しもがき苦しんだと思えば動かなくなった。
あらら、短い命だったのねこの奥さん。見積書も何も申請しないからこうなるんだ。
「等価交換成立だ」
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作者名：零紅 | 作成日時：2017年7月16日 0時
