【実/況/者】ぱられる2【短編集】 (ページ8)

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席替え@p-p ページ8

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「教科書忘れた」

ぽつりと隣から小さな呟きが聞こえたのは席替えから数日後経った木曜日だった。

前の席でキヨ君が言ったときはいらっとしたのに彼女が言うと何も感じないのが不思議だ。
彼女は予想通り見せてと頼んできたので、僕は嬉しい気持ちを悟られないように返事をした。
そのあとの授業は先生には申し訳ないが何も身に入らなかった。
隣で髪を弄る彼女が眠そうに、うとうとしていたことだけはしっかりと覚えていた。

「眠気覚ましにあめなんてどう？」
「わ、ありがと」

彼女は包み紙を剥がすと小さな口にあめを放り込んだ。
甘いものが好物だということをつわはすさんに聞いておいて良かった。

「教科書も借りたし、あめも貰ったし、ぴーぴーくんにはお礼をしなくてはいけないね」
「...じゃあ、一緒に帰ろうよ」
「そんなことでいいの？」
「うん、十分」

いつものように、言えただろうか。
心臓をばくばくさせながら言葉にしたが、彼女はそんなことを知る筈もなくおっけーと笑って返した。

放課後になるのが、いつもより遅く感じられた。

彼女とは家の方向が真逆だったがそんなことは何も気にならない。
何を話そうかと悩んでいると、先程まで隣にいた彼女の姿が見当たらないことに気付いた。
突然のことに焦ったものの、数秒後には安堵していた。

...やっぱり、甘いものには目がないんだな。

クレープ屋さんの前にいる彼女を見てつい笑みが溢れた。
彼女の近くにいくと凝視しているのは定番のいちごホイップで、僕はそれを店員さんに注文する。
手渡されたクレープはそのまま彼女の両手に。

「はいどーぞ」
「......いいの？」

いいよ、と言う前に彼女はクレープを口に含んでいた。
幸せそうにもぐもぐと口を動かす姿も、唇の端についたホイップクリームに気付かないところも、全てが、いとおしく感じた。

「.........Aさん」
「んー？」

「好きです」

意識せずに、息をするのと同じように当然のように吐き出されたその言葉は結果、僕の前を歩いていた彼女の足を引き留めた。

「私に告白するなんて、相当変わり者だねぇ」
「......変わり者のAさんには言われたくないかな」
「その変わり者を好きになったぴーぴーくんはもっと変わり者」

「でも、もっと変わり者のぴーぴーくんを好きになった私はもっともっと変わり者かもね」

　