浅沼家の日常10

バレンタイン？知らない日ですねぇ ページ17

2月14日、すなわちバレンタインデー

4人中3人が男で構成されている浅沼家では、毎年Aが手作りのスイーツをプレゼントしてきた

そう、手作りである

手間暇かけられたそれらのスイーツたちは平均して前日、長い時には3日ほど前から準備が始まり、14日当日の夕食のデザートとして振る舞われた

それを今年も期待した浅沼家男衆だった。……が

秀斗「ねぇっ、本当に今年作ってないの？」

大智「冷蔵庫も棚も隅から隅まで探したけど無かっただろ。チョコのにおいもしないし」

浅沼「どこかのキッチンスタジオで収録だったって話も聞いてないしなぁ」

大智「まぁ、最近ずっと激務だったから作る暇無かったのかも…」

秀斗「既製品すら貰えないのかな…もう夜なんだけど…」


双子の通う高校は男子校

この時期になると交際相手のいる生徒だけが生き生きとし、その他はチョコレートを欲するゾンビと化す

なお双子は最愛の母から貰えるため、これまでは(・・・・・)ゾンビ化する側ではなかった


そして仕事柄付き合いの多い浅沼は、業界内でも真っ先に名前が上がるほどの愛妻家として知られている

その妻であるAも老若男女問わず好かれるため、浅沼とA両名に宛てたバレンタインチョコというのがほとんどだった

さらにバレンタイン当日にAと現場が被らない役者勢から、渡してくれと頼まれることもしばしば…




つまり何が言いたいのかというと、今年の浅沼家男衆は愛の詰まったチョコレートを1つも貰えないかもしれないという危機に直面しているのである

年中無休で最愛の妻と母に愛されているという自覚はあっても、やっぱりバレンタインデーには愛の詰まったチョコレートが欲しい

手作りであっても、既製品であっても、だ

しかし年が明けてからのAは仕事に追われていた

これまでもぎっしりだったスケジュールが、今年はさらにギッチギチ

それでも毎日元気に家の仕事もこなしていて、タイムターナーでも使っているのかと本気で考えることもあった

ハーマイオニーもビックリである

浅沼「今年は忙しいから準備できなかったのかもな。逆に俺たちが何かしてあげるべきだった」

大智「俺らも自分のことしか考えてなかったな」

秀斗「うん」

『3人でさっきからコソコソと何してるの？』

夕食を食べ終え、リビングのテーブルを囲みながら小声で話をしていたところにAが首をかしげながらやってくる

その手には鍋のような、ポットのような物があった

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