ムラサキ__《N.Ren》 (ページ43)

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ムラサキ__43 ページ43

your side

幸せな夢を見ているようだった。

でも、永瀬くんの温もりは確かに覚えていた。

あんなに素直で温かい愛を感じたのはいつぶりだろうか。
真っ直ぐに愛を返せたのは、いつぶりだろうか。

あんなに綺麗な紫色の空、忘れられるわけがない。
忘れたくない、あれは現実だったって、覚えておきたい。

だけど、幸せな時間はたった半日で終わってしまって。

気づけば、勇太と一緒に勇太の家に連れていかれていた。

私がこんなことをして、
向こうは婚約破棄しようとは思わないのだろうか。

私の家のことなど、切り捨てたって向こうに不利益などないはずなのに。

幸い、勇太の父は家を空けていたようで、私の失踪のことは知られずに済んだ。

「…A、」

勇太の部屋に2人、
先に口を開いたのは勇太だった。

「俺は、Aの事が好きだから」

驚いた。
嘘だと思った。

私は思っていることをぶつけた。

「……薄々気づいてるんでしょ？」

「…やめてくれ」

「私が、なんで永瀬くんといたか、分かる？」

「…もういい、聞きたくない」

「このままじゃ無理だよ、」

「頼むから、それ以上言わないでくれ」

勇太の方を見ると、泣いていた。

「どうして、俺はこんなに好きなのに、」

私も泣いた。

「私だって、好きだったよ」

「……過去形かよ」

「不器用だけど私のことを大切にしてくれてた勇太の事が、大好きだった」

これは、嘘ではない。
本当に好きだった。

「なのに、勝手に浮気して、私を突き放したのは勇太でしょ………？」

ずっと言えなかった、私の勇太への怒り。
それを聞いて、勇太は言った。

「…怖かったんだ、捨てられるのが怖くて、だから、」

途切れ途切れな返事。
私は俯いた。

「だから先に傷つけたの？……捨てるつもりなんて私無かったのに、勝手すぎるよ……」

たしかに両思いだったはずの矢印は、
気づけばすれ違っていて、
もう戻れないことは、この時お互いに分かっていた。

勇太が立ち上がって、私を抱きしめた。
その手は震えていた。