あのさ。 ページ36
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「じゃな、岩泉」
「おう」
HRも終わり、下校体制に入る生徒が多くなる。この季節。夏の大会をもって引退した生徒はほぼ下校、即受験勉強だからだ。
"今日、部活オフ。"
岩泉も部活がオフらしいから、当然早く帰りたいに決まっている。
でも。
「岩泉」
教室から出ていった岩泉の鞄の紐を、鷲掴みにする。自分の席から扉まで、少し早歩きで歩いてきたから、勢いがついて、岩泉がバランスを崩した。
顔を見れなくて、俯く。
それでも、引っ張った主が私だと気付いて、どこか気まずそうに、
「……何だよ」
とだけ答えた。
その声の低さに少し、息を呑む。
掴んでいた紐を握り締め、深呼吸をして、俯いていた顔を上げる。
「先生が放課後残れって」
頼む、残ってくれ。お願いだから、断っといてとか言わないで。嘘ついてごめん、でも。
でも、確かめたいから。
機嫌が悪そうに眉間にシワを寄せる姿は、9月1日の屋上を思い出させた。
「……分かった」
出ていくところだったのを、岩泉が踵を返し、また、教室に入っていく。
そっと一息をつく。
次々に教室から出ていく生徒達。
いつものグループの2人組にも手を振って、さあ、いよいよ2人きり。
……そんなとき。
「岩ちゃーん、帰んないの?」
……嗚呼、忘れていた。
岩泉あるところにこの男あり。
学年一のモテ男、及川徹。
私も一目見たときは驚いた。こんな人がいるのかと。でも、3年間同じクラスになったことなんてなかった訳で。教室に残った私達を見て、珍しそうに目をパチクリさせていた。
「あー、なんか居残りだとよ。先帰っとけ」
居残りではないんだけども。
少しの罪悪感を抱きつつ、チラリと横目に及川徹を見る。相変わらずのイケメンぶり。顔のパーツが整いすぎてて、逆に怖い。
「ふーん。あ、そっちの子は?」
目が合って、問われる。え、何、これ。答えなきゃ……ダメ、だよね。
「……湯川A。及川くんだよね」
確認するまでもない。でも一応、自分の名前だけじゃ無愛想だから、なるべく笑って、口にする。
一瞬面白くなさそうな顔をした後、そうだよ、といつもの笑顔に戻っていた。男バレのギャラリーはほぼ女子。及川徹ファンの女の子ばかり。
確かにイケメン。塩系っていうの?かっこいいよね、分かる。多分至近距離になったら相当ドギマギしますよ多分。……多分。でもね及川くんよ、今はそれどころじゃないんです。
早く帰ってくれ、なんて願うまま。
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あいうえお - すみません他の作品のパスワード教えてほしいですー! (2023年2月18日 22時) (レス) id: 8655edc292 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - たまたま見つけたこの小説でしたが、読んでよかったなあと思いました。私も夢主ちゃんと同じ感じで何もないのに死にたいとかめっちゃ思います。だからこそ共感できるし、なんか同じ気持ちの子がいるんだなって嬉しくなりました。好きです! (2021年6月19日 6時) (レス) id: 85ad8c6978 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まーちさん» いえ!こちらこそ読んでいただき本当にありがとうございます!感動したと言っていただけて本当に嬉しいです。コメントまで残して頂き、励みになります!本当にありがとうございました! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まふにゃさん» 歌詞だったんですね!気付きませんでした!今度検索してみますね!コメントありがとうございます! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
まーち - こちらの作品とても感動しました。少し、少しだけ感情が薄い私がなきそうになりました。こんな素敵な作品を作っていただきありがとうございます。 (2020年12月10日 21時) (レス) id: 65334a4eed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年1月12日 17時