54話 ページ5
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額に滲む汗を拭いながら、ぶんぶん手足を振り回す。
初夏特有の眩しい陽射しに目を細めながら、私は坂を転がる小石のように走っていた。
久しぶりの全力疾走に、運動不足の私の息はすぐにあがった。それに、足には沢山の切り傷もある。
しかし、その苦しさを上回る程に感じる、
『自由』と『生きている心地』。
久しく感じていなかったそれらに、心臓が、肺が、体中の全てが走れと自身を鼓舞していた。
「わあ〜、俺ってばジーマーで幽霊見えちゃってる?死んだはずの人が見えちゃってるんだけど〜。」
突然かけられた声にびくりと驚き、精一杯急ブレーキをかける。見切れかけた緑の視界の中に、気の抜けた声と共にふわりと白が映り込んだ。
「…ふふ、何ふざけてんの。幽霊らしく末代まで呪うわよ。」
「えっ怖〜。」
ゲンの軽薄な笑い声なのに、いつもと違ってすごく安心する。出発から数時間、ようやくゲンと再開することができる。
千空が居るという村に行くには、既に経験のあるゲンの道案内が必要だった。
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「にしてもあんなに上手くいくとはね〜。ん〜と、猫、猫…猫箱理論?だっけ?」
「『シュレディンガーの猫』ね。箱の蓋を開けてみるまでは、その中の猫が生きているか死んでるかは分からないってやつ。」
「そうそう、それそれ〜〜」
ゲンがAの少し前を先導しながら、首だけで振り向いて問いかける。
私もこんなに上手く成功するなんて思ってなかったけれどね。そうAが呟いた。
あの時必要なのは、ただ私が司達の監視から逃れる為の時間稼ぎをすることだけだった。
あの洞窟の中で空気より重いガスを発生させてしまえば、下へ下へとガスが流れていき、最後には洞窟の奥に溜まっていく。洞窟の奥にいるという私の生死は、だれかが洞窟に潜らなければわからないのだ。
司や氷月なら誰かを洞窟に潜らせる事も有り得たけれど、それでも反対する人は現れただろうし、指示を出すまでに結構な時間がかかるはずだ。
とにかく私がここまで逃げられたというだけで、十分満足出来る結果だった。
「洞窟の中を確認されてたら流石に逃げられないと思ってたんだけど……そうならないように、誰かが手を回してくれたみたいね。」
「えぇ、凄い!Aちゃんその人に貸しイチなんじゃない??」
目をうるうるさせながらこっちを振り返るゲン。
その様子がわざとらしすぎて、無視を貫くつもりだったけれど流石に鼻で笑ってしまった。

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AKU(プロフ) - 連載中にこの作品に出会いたかったです泣 (2024年4月7日 2時) (レス) @page9 id: 7e29cefaa6 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんぽんぺいん(プロフ) - ぽんずさん» ぽんずさんコメントありがとうございます…!え本誌勢ですか!?怒涛の展開ですよね最近…!!本誌まで追いつく気持ちはありますので、今後もよろしくお願いします! (2021年5月29日 20時) (レス) id: 185f2519d5 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんぽんぺいん(プロフ) - 不透明さん» ありがとうございます…!!もう最近は超絶健康なんでたくさん更新したいと思います、今後もよろしくお願いします! (2021年5月29日 20時) (レス) id: 185f2519d5 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんぽんぺいん(プロフ) - リサさん» ッウワーーリサさん!前編に引き続いてご感想ありがとうございます!今後たくさん更新していく予定ですので、是非お待ちください! (2021年5月29日 20時) (レス) id: 185f2519d5 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず(プロフ) - おかえりなさい!受験お疲れ様でした!これからも頑張ってください、応援してます!!(ちなみに本誌勢です) (2021年5月23日 15時) (レス) id: 22afa4f87f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽんぽんぺいん | 作成日時:2021年2月1日 2時