天高く2-1 ページ2
「ねぇ、A。
ハロウィンの日さ、あのカフェ行かない？」
「あのイケメンがいるとかいうカフェ？」
「そうそう！
今月、仮装してるんだって」
マイコに誘われたのは、夏の終わり頃のこと。
「行ってみたいんだけどハロウィンの日は2人以上じゃないと予約できないの。
ね、A、一緒に行こうよ」
「しょうがないなー。
マイコがそこまで言うなら、心優しいA様が一緒に行ってあげよう」
「ほんと？やったー！
ありがとう、心優しいお代官さま！！」
「お代官さまって！！」
何で時代劇！？
マイコとひとしきり笑って、2人で時間を決めて予約した。
「SNSでは見てたけど、来てみたらドキドキするね！」
予約時間をカフェの入り口横にある椅子に座って待つ間、マイコは何度もガラスの向こうを覗いている。
さっきまでは、カフェの外観とかメニュー看板を撮りまくっていた。もちろん、他人様の迷惑にならない範囲で。
推しが宣伝している腕時計を見ると、予約時間まであと10分ほどだ。
カフェの中から海賊が現れた。並んでいる客がざわつく。中には、小さいながらも「キャー」に近い声が漏れる人もいて、人気の店員さんだとわかる。
「お待たせしております。
お客様のお名前と、ご予約時の受付番号をお願いします」
「木須マイコです、番号は…」
海賊の衣装を纏うのは、優しそうなお兄さん。身長は…180は無さそうだけど、ブーツ履いてるからそれぐらいに見える。
後ろに束ねている髪は多分つけ毛なんだけど、少し癖のある前髪が目元にかかると、やたら色っぽい。
初めましての私でもドキドキしちゃう。
かっこいい海賊のお兄さん、どこかで見た何かに似てるんだよね…。
何だっけ……？
「こちら本日の限定メニューになります。
ご案内までしばらくお待ちください」
海賊さんは、会釈すると次のお客さんのところへ行ってしまった。
残される柔らかな香り。
「マイコ、あの海賊さん、すごくいい匂い…」
「思った！
名前とか番号とか伝えてる時からいい匂いしすぎて話入って来なかったのー」
「アハハ、わかるけど、ちゃんと話聞いてー」
「大丈夫！大事なとこはちゃんと聞いた！」
2人で笑っていると、海賊さんがカフェに戻っていく。
私たちは残り香だけでもう海賊さんのファンになっていた。
写真は海賊さんにお願いしようかな。
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作者名：lettuce | 作成日時：2023年1月28日 0時
