幼馴染からその先へ【双星の陰陽師】

第二十四話 ページ36

Aside(これは第十話の続きです。忘れている方は第十話へ)

昼餉も食べ終わり、暇を持て余していた。
読書をしようにも、書庫の本はとうの昔にすべて読破してしまっている。げーむとやらは持っていない。すまーとふぉんも、必要ではないため持ってはいない。
「ん？‥‥‥なんだ、雨か」
バチバチという音に、なんだなんだと窓を覗く。雨が降り出したようで、ふと、傘の顔を思い出す。
(そういえば、雨傘持って行ってないよね。届けないと)
傘が忘れ物をするなんて、珍しいこともあるものだ。真面目な弟には、忘れ物何て縁のない物だ。だというのに、今日に限ってしてしまうとは、何かが起きる予兆だろうか。思い返せば、新の急な帰宅、鈴蘭の不自然さ、おかしいことばかりが起こっている。
ますます考え込んでしまう。
難しいことを考えていても仕方がない、兎に角傘に雨傘を届けなければ、そう思いなおして、席を立つ。
「おや、A様。お出かけですか？」
好々爺のような笑みを浮かべた執事が、話しかける。
「はい。傘が忘れ物をしたので、それを届けに」
そうですか、と言って、優しい口調で言う。
「ほぉ、それは珍しいこともあるものですね。傘様がお忘れ物だとは。傘様が普段凛凪邸にお帰りになった頃には上がっているはずですが、万が一がありますからね。A様もお気をつけてくださいね。A様は傘様とは違って、ドジをすることがありますから」
苦笑しながら、頷く。
自分が抜けているのは承知している。が、弟は珍しくて、姉のAが日常茶飯というのは、解せない。少なくとも、そんな頻繁に忘れ物をするわけではないし、第一、外に出ること自体あまりないのだ。それでも言われてしまうとは、情けない。
靴を履き、傘を二本取る。執事の忠告は、忘れていない。
いってらっしゃいませ、という声に、行ってきますと返す。
傘を開き、扉を開ける。
傘の上で踊る、雫たち。
今はまだ五時限目が終わった頃。走れば休み時間に間に合う。
そう思い、全力疾走で青陽院へ向かう。雨の中、転ばない様に細心の注意をはらいながら走った。
走るのは久しぶりだった。それも、全力疾走なんて、何時ぶりだろうか。
水たまりの上を駆ければ、水飛沫が上がる。そんな普通のことも、Aには特別に思えた。

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