[茶]そうか、つまり君はそんなやつなんだな ページ8
「『少年の日の思い出』という小説をご存知ですか?其処にエーミールという少年が出てくるのですが、クジャクヤママユという蛾の標本を友人に壊されてしまうんです」
最早日課となってしまったエーミールとのお茶会の最中、唐突に彼が切り出した。『少年の日の思い出』は教師から薦められて読んだことがある。
知ってる、と頷きエーミールが淹れてくれた紅茶を口に含んだ。…やっぱり苦い。ストレートを試してみたが、子供舌の私に砂糖は必要不可欠のようだ。シュガーポットのお砂糖を三杯紅茶に入れ、くるくるとマドラーでかき混ぜる。
「それならば話は早い。このお話でエーミールが犯してしまった失態は何か分かりますか?」
「えっと…その後仲直りしなかった事?」
エーミールは違います、と言って首を横に振った。この話は道徳の教科書に近い。つまり、人それぞれこの話を読んで感じる事にムラがあるという事。彼も何か感じ取ったのだろうと、正解を聞いてみる。
「それはですね、態々大切な標本を他人に見せた事です。それと、鍵も掛けずやに標本が置いてある部屋を留守にしてしまった事」
「まぁ…そういう考えも出来るのかな。希少なクジャクヤママユを手に入れたから、自慢したかったんだろうね」
それより何でこの話をし始めたのか気になるが、紅茶が冷めてしまうとエーミールにお茶を勧める。いつも少しだけお砂糖を入れる彼だが、今日は手を付けなかった。珍しいな、と思いつつ自分も紅茶を楽しむ。
「全く、何故エーミールは自慢などしてしまったんでしょう。私だったら自慢など愚かな事はせず、誰の目にもつかない部屋に置いて、鍵を掛けておくというのに。大切な物が他人に奪われるなど、そんなヘマはしません。蝶もその方が嬉しいでしょう?」
「蝶…?蛾だよ、エーミール」
訂正の言葉を述べた瞬間、ティーカップが手から滑り落ちた。全身に上手く力が入らず、椅子に体を預ける。同時に途方も無い眠気に襲われ、意識を保つのがやっとだ。
「ええ、“エーミール”が捕まえたのは蛾です。でも私が捕まえたのは貴方、蝶なのですよ」
いつの間にか側に移動していたエーミールに手を握られ、彼は恍惚とした表情で続けた。
「ふふっ、睡眠薬入りのお砂糖は美味しかったでしょう?他人に貴方を奪われてたまるものですか。ずっと籠の中、私の加護の元に居てくださいね」
「お慕い申しております、私だけの蝶」
ちゅ、と手の甲に口付けを落とされ、意識だけが飛び去った。
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誠(プロフ) - マイソさん» こんにちはマイソ様、お褒めのお言葉ありがとうございます!続編の用意ができましたので、どうか心ゆくまでご堪能して頂ければ幸いです。 (2021年9月5日 14時) (レス) id: b57bb5d927 (このIDを非表示/違反報告)
マイソ - 完結おめでとうございます。誠様の書くヤンデレは、何というかとても美しく、何度も読み返してしまいます。素晴らしい作品をありがとうございます。続編を楽しみに待っています! (2021年9月5日 12時) (レス) id: 8209a7a990 (このIDを非表示/違反報告)
誠(プロフ) - 椿・鵯(ひよどり)さん» ご機嫌よう鵯様、貴女にそう言って頂けるなんて何たる光栄!貴女のお言葉を大変嬉しく思うと共に、謹んで御礼申し上げます。鵯様の芸術品を読み返しては、貴女に憧憬し心酔しております。貴女に、最大限の感謝と愛を込めて。本当にありがとうございます。 (2021年9月4日 19時) (レス) id: b57bb5d927 (このIDを非表示/違反報告)
椿・鵯(ひよどり)(プロフ) - お疲れ様です。本日はこの名で失礼致します。貴殿の益々のご活躍誠に喜ばしく存じます。息抜きを忘れずにお気の召すままの自由な貴殿をお慕いしております。心身にはくれぐれもお気を付けくださいませ。貴殿の益々のご発達陰より応援してございます。 (2021年9月4日 10時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
誠(プロフ) - さんぷるさん» ありがとうございます!そう言って頂けて嬉しい限りです。ヤンデレはいいぞ! (2021年8月15日 9時) (レス) id: 1fa7f4b5d2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:誠 | 作者ホームページ:http://around-the-clock
作成日時:2021年1月24日 12時