十四話 ページ14
離れた理由──くるま君からしたら、そんなことでと言うものばかりだと思う。
でも当時の私は『そんなこと』では片付けられなかった。
「アイツ最近浮かれっぱなしですよ。ずーっとミサキさんの話しかしなくて」
同じサークル内の、直樹君と仲の良い同級生。
その子から最近の彼の様子を聞いて驚いた。
普段は落ち着いているように見えるのに。
「そりゃこんな綺麗な人と付き合えるならそうなるよなぁ」
「……あのさ、私と付き合ってから色々言われてる？」
恐る恐る聞けば、お喋りなその子はよく話してくれた。
同級生の間で、直樹君の付き合いが悪くなった、ネタが面白くなくなったと言われているらしい。
…そういえば、一緒に暮らすようになって彼はバイト以外で外出しなくなった。
直ぐに家に帰って来て、私と過ごしている。
「まあ、言ってる奴は僻んでるだけですよ。ミサキさんと付き合ってる�眸耄匹�羨ましいんす」
「…あはは。私なんてただのクズだよ。ちょーっと見た目はイイけどね」
自分で言うんだ！なんて爆笑する姿を眺めながら、私は良くないかもしれないと思い始めていた。
直樹君が漫才をする姿は好きだ。
彼にはきっと凄い才能がある。
──それを、私が潰そうとしているのかもしれない…。
「ミサキさん？どうかした？」
「…あ、ううん。今日の煮付け味濃いかなぁって」
「そう？普段どうり美味いですよ。ミサキさんは良いお嫁さんになるね」
ニコニコと嬉しそうな笑みで直樹君が言った。
…あの同級生の子から聞いた話をしなきゃと思うのに、この楽しい時間を壊したくない。
黙った私をどう思ったのか、直樹君も笑みを引っ込めてしまった。
「……俺、本気でそう思ってますよ」
「…え？」
「ミサキさんと結婚…したいなって。あなたすげぇモテるでしょ。確実に俺のものにしないとっていつも思うもん」
大きな掌に手を包まれて、真剣な瞳に射抜かれる。
私は唖然として言葉が告げなかった。
直樹君がこんな風に思っていたなんて知らなかった。
──私なんかと、結婚？直樹君が？
「…で、でもさぁ芸人になるなら最初は余裕無いでしょ？結婚なんて無理だよ」
私が茶化すように笑っても、直樹君は笑ってくれなかった。
誠実に、真面目に言葉を紡いでくる。
「就職するのもアリかなって。ほら、社会人やりながらでも芸人はやれるじゃないですか。…っミサキさんは今までと同じ様に好きなことしてくれればいいんで！だから俺と──」
顔を赤らめて真剣にプロポーズをする彼を見て、最初に生まれた感情は喜びじゃなかった。
もう潮時だという、緩やかな絶望だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 351人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Rちゃむ(プロフ) - また更新してくれるの楽しみに待ってます!! (11月21日 3時) (
レス) id: 2699b67894 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - 展開がおもしろすぎます！！負担にならないペースでいいので更新楽しみにしおります🥺 (10月3日 15時) (レス) @page18 id: e4cf6a3d37 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マピト | 作成日時：2024年9月17日 17時
