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〈…わたくしたちは、あなたが幸せになれるようにと精一杯してきたつもりです。貴族の当主としての幸せを…貴方が素直に受け取れるように。…それが、間違っていたことを痛感致しましたが〉
どこか自嘲したような笑いが、電波の先から聞こえてきよる。
それに何も言えず、ただ俺は母上からの言葉を待った。
〈…わたくしたちは、本当に貴方の幸せを願ってきたのです。貴族として生まれ、貴族として結婚し、貴族としての生き方しか知らぬわたくしたちは……あれこそが、幸せなのだと思っておりました〉
『…』
〈けれど、違った。MDM…？の前夜祭で、貴方が満面の笑みで歌っているのを見て、酷く後悔したのですよ。…わたくしたちは見たことのない、あんなに楽しそうな笑顔を見て。…間違っていたのだ、と痛感致しました〉
何も、言えへんかった。
俺が"小さな世界"で生きてきたように、父上や母上も、"小さな世界"しか知らんかったんや。
〈遅いかも知れませぬが…ごめんなさいね、A〉
『…は、はうえ…』
〈わたくしも、あなたの亡き父上も、あなたが大好きよA。…愛しているわ。アイドルとしても、当主としても。…頑張ってね、A〉
…それだけ、と小さく呟いて電波が一方的に切れる。
プツ…と音がして、MDMが終わった後の喧騒がまた耳に戻ってきた。
撤収作業をしとるスタッフが、控え室の外を行ったり来たりしとる音が聞こえる。
けど、その音が聞こえないほど、俺はしばらく放心しとった。
『……な、んや…それ…っ』
力が抜けて、ぺたんと床に座り込む。
視界が歪んで、頬を伝ってぽたぽたと涙が零れていった。
『…っ…遅いんじゃ、ぼけ……』
遅い、と詰りながらも、俺は嬉しかった。
愛している、とただ1人になってしまった肉親の口からその言葉を聞けて。
何もかもを放棄したいくらいには放心しとったけど、でも、もう十分やった。
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魚(プロフ) - あめんぼさん» ご愛読頂きましてありがとうございました！ (2021年8月21日 17時) (
レス) id: e0d88f5dee (このIDを非表示/違反報告)
あめんぼ(プロフ) - とても面白かったです。 (2021年8月20日 20時) (レス) id: 446f4af563 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 初坊さん» ご愛読頂きましてありがとうございました！そう言っていただけて嬉しいです！ (2021年8月19日 19時) (レス) id: e0d88f5dee (このIDを非表示/違反報告)
初坊(プロフ) - 完結、おめでとうございます！とても素敵な作品でいつも更新楽しみにしていました。この作品にであえて本当によかったです！ (2021年8月18日 19時) (レス) id: 8f51cef084 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - さばかんさん» ご愛読頂きましてありがとうございました！そう言っていただけて嬉しいですー！新作でもよろしくお願いします！ (2021年8月18日 17時) (レス) id: e0d88f5dee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：魚
| 作成日時：2021年8月11日 12時
