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『ねぇ……好きだったよ。あなたに会えて…良かった。だから…幸せになってよ』
…そんな、ぼろぼろ泣きながら言われても。
ただ俺の未練が残るだけ。
ただゆっくり下がっていくAとの距離があかないように、俺もゆっくり追いかける。
shp「嫌や。なんでそんな事言うんすか。俺には、Aが必要やのに…」
思わず、先輩呼びから呼び捨てに変わってしまったけど、事実やもん。
ようやく会えたんや。
離れるなんて有り得へん。
『でも、私はあなたの重荷にしかなってない。だから＿＿＿』
Aが次の言葉を紡ぐ前に、それは遮られた。
足を滑らせたAが海に落ちていく。
後ろに傾く体は、いつか見た夢のようで。
それがスローモーションのようにゆっくりと目の前で行われている。
俺は必死になって手を伸ばした。
でも、その手は空を掴んで。
Aは海に沈んでいった。
俺は学ランの上着を脱ぎ捨てると、Aを追って
海に飛び込んだ。
白い髪がぐんぐん沈んでいく。
落ちた時に水を飲み込んで意識を失ったらしい。
でも、どれだけ頑張って水をかいてもAには追いつけへん。
息が、続かない。
目が霞んできた。
それでもなんとか腰をさらって、動きにくくなってきた腕で水をかいた。
視界が暗くなってきた時、ようやく俺の肺は酸素を手に入れて、生き長らえた。
ずるずるとAを陸にあげる。
整うことのない呼吸のまま、耳をAの口に近付けた。
……息してへん。
人工呼吸をしつつ、自分の息も整える。
何回も人工呼吸をする。
でも…何回やってもAの息は戻らない。
shp「…せや…心臓…」
脈は、止まっとった。
まだ、間に合う、かも、知れない。
俺は心肺蘇生を試みた。
でも、Aは還って来なかった。
shp「…は……はは…」
俺は、Aを抱き上げて、海に入った。
きつくきつく抱き締めながら、俺らはゆっくりと沈んでいく。
海面は、もうはるか遠くにあった。
瞼が…重くなっていく。
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作者名：魚
| 作成日時：2020年2月16日 18時
