甘くて甘い、【歌い手】【短編集】

寝たくない【urt】 ページ23

《 やだ、行かないで…！ 》
《 君を連れては行けない… 》


恋愛漫画のテンプレートのようなセリフがテレビから聞こえてくる。


隣にいる彼氏の渉は興味津々と言ったように画面に見入っている。

一方の私は日頃の睡眠時間の短さを恨みつつ眠気に耐えている。


「…A、眠い？」

『んーん、だいじょぶ…』


大丈夫じゃないでしょ、と笑いながら、

手を引かれてあぐらをかいている渉の足の間に収められた。


「眠くなったら寝ていいから」


後ろから渉の体温を感じて先程より格段に眠気が増してきた。

それでも映画が終わるまでは寝るまいと、私も意地を張る。


「…無理してない？」

『してない、まだおきる、よふかしする』

「もう限界でしょ、いいよ寝よっか」

『え、でも、』

「映画くらいいつでも見れるから。ほらベッド行くよ」


彼はテレビを消すと私の手を引いて寝室まで連れてきた。


『…ごめん』

「いーって。俺も寝たいし。ほらおやすみ」


布団を肩まで掛けられてとんとん、と一定のリズムでお腹あたりをさすられる。


ありがとう、と言うことすらできなくて重くなった瞼は自然と閉じていった。


「…おやすみ、愛してる。」


fin.

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