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外に出るともう真っ暗でかなりの時間が経過している。外から見た十年ぶりの高専の校舎は変わらずで、変な感じがした。

「ごめん、お世話になります」
「お構いなく」

 二人を乗せた車が緩やかに発進した。五条先輩の発言もあり気まずく感じてしまい、聞きたいことはたくさんあるのに話しかけるのを躊躇ってしまう。けれど無言でいるのもへんに気まずくて、前を見つめたまま当たり障りのない話題で話しかけた。

「七海の家ってどこ方面?」
「港区の方です。前の職場の近くに」
「前の職場?」
「一度術師を離れて一般社会で働きました」

 七海が呪術界から離れて一般社会に就職していたなんて意外だ。七海のことだし、スマートにこなしてたんだろうだなあ。

「へぇー! 何やってたの?」
「証券会社で売れる予定のない株をお金持ちの人に売りつけていました。労働もクソでしたよ」
「そっちも大変だったんだね」
「……ええ、まあ」

 また沈黙。空いた歳月の長さを感じる。七海にもいろいろあったみたいだ。またこっちに出戻っているようだし、なおさら。
 どうして一般社会に戻ったんだろう。確かに嫌になって術師をやめる人は多いけど、少なくとも在学中にそんな素振りは……。そして思い当たった。ああ、私か。親友の死に、恋人の裏切りと離反。心を壊さない方がおかしいんだ。
 ズキリと、無責任にも胸は傷んだ。

「そういえばお腹は空いていませんか。夕食はまだでしょう」
「……言われてみれば空いてるかも」

 今までそれどころではなかったため気付かなかったが、指摘された途端空腹感が主張してくる。今にも腹の虫が鳴きそうだ。

「どこか食べに行きますか。私もまだ食べていないので」
「今って何時?」
「一〇時です。ちなみにこの近くに美味しい焼き鳥屋があります」
「……行きたい」

 一瞬の逡巡があったが行くことにした。現実から逃げたかったからだ。車窓に反射して映る私は煮詰めた顔をしていて、静かに無表情に戻した。



 連れてきてもらった焼き鳥屋さんは大衆居酒屋のようなお店で、ガヤガヤとした喧騒の中ではふとした沈黙も苦にはならなかった。
 二人の再会に乾杯をして(運転のため七海はノンアルだ)、普段は飲まない生ビールを煽る。一口焼き鳥を口に入れると、懐かしい味に思わず固かった頬が綻んだ。

「おいひい〜!焼き鳥ひさしぶり……」
「喜んでもらえたようでよかったです」
「七海セレクトのおみへはいつもいいよね」

 鶏を取り皿に移してパクパク食べる。対して七海の箸はあまり進んでいない。

「お酒飲まれるんですね」
「あんまひ強くないんはへほめ」
「食べながら喋らないでください」

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墓場(プロフ) - Aさん» レスするの忘れてました😭💦 (2023年2月4日 1時) (レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
墓場(プロフ) - コメントありがとうございます😭🙇🏻‍♀️夢主の優柔不断さが物語の肝になるのでちゃんと伝わっていて安心しました……コメントとても嬉しいです、!!ストーリーが地獄ですが最後まで見届けていただけるようがんばります。 (2023年2月4日 1時) (レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
- 七海の穏やかさが心に沁みました。最低な男に惚れてしまう私の優柔不断さも相まって、めちゃくちゃ感情移入してしまいました… (2023年2月4日 0時) (レス) @page1 id: f9229a002a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:相沢 | 作成日時:2023年1月21日 21時

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