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病院に着くなり泣き出してしまったが、七海は冷静だった。「何かできることはありますか」と聞いて、お茶とストローを買ってきてほしいと頼めば嫌な顔一つせずに買ってきてくれたし、私がお手洗いに行くときにはベビーカーを適度に揺らして遊んでくれていた。嵐は去ったのか、そこにはあの頃のような凪いだ彼がいた。
慣れない環境や場所に不安だったけど、不思議と気持ちは穏やかだった。
「人見知りはないようですね」
「向こうでいろんな人に見てもらってたからかな」
帰りの車内にて、慣れない病院、診察に疲れたのか悠人はぐっすり眠っている。バックミラー越しに翡翠と目が合った。
「あなたによく似ている」
「よく言われるよ。私から見れば傑に似てるんだけど」
「笑ったときの顔がそっくりだ」
七海から見た私はそう見えているのだろうか。なんだか変な感じだ。
「あなたと夏油さんの子供でしたら、将来はたくさんの女性を泣かせてそうだ」
「傑のはわかるけど、私のってどういう意味」
「二人とも異性を誑し込むのが上手い」
「……」
「まっすぐ育ってほしいものです」
七海だけだよ。あんなに私に尽くして愛してくれたのは。けれどなんとなく、言えなかった。
背もたれに身を任せて深く座り込んだ。はぁ、とため息が自然とこぼれる。
「この子の名前はね、私がつけたの。未来でも明るく生きて欲しい、そういう願いを込めて」
半分ウソ。『人』という文字は、七海からとったもので、彼のような人に育ってほしいと思ったから。これは傑にも言えなかったけど、彼のことだからやんわり気づいていた気がする。
「七海はどうしたいの？」
「……」
「昨日は無理やり抱いてきたのに、今日は優しかった。嵐かと思ったら、また凪いだ海……」
「昔も言ってましたね、それ」
「……え、そうなの？」
「ええ、私のことを海みたいだと」
言ったんだ、全然記憶にないけど。詩的な表現だから少し恥ずかしいな。
「昔の七海はね、翡翠の常夏の海みたいで穏やかで、すごく居心地が良かった……」
「愛されていましたからね」
「……」
「ですがいくら常夏の海だろうが天候はあります。あなたが気付かなかっただけで大荒れでしたよ。あなたのせいで」
「ななみは、優しかったよ」
「必死に格好つけてたんですよ」
瞼が次第に重くなっていく。あれ、私何が聞きたかったんだっけ。
思い出す前に、記憶が途切れた。
「……私にも、もうわからないんですよ」
そんな七海の声は、聞きとれないまま。
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墓場(プロフ) - Ａさん» レスするの忘れてました😭💦 (2023年2月4日 1時) (
レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
墓場(プロフ) - コメントありがとうございます😭🙇🏻♀️夢主の優柔不断さが物語の肝になるのでちゃんと伝わっていて安心しました……コメントとても嬉しいです、！！ストーリーが地獄ですが最後まで見届けていただけるようがんばります。 (2023年2月4日 1時) (レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
Ａ - 七海の穏やかさが心に沁みました。最低な男に惚れてしまう私の優柔不断さも相まって、めちゃくちゃ感情移入してしまいました… (2023年2月4日 0時) (レス) @page1 id: f9229a002a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：相沢 | 作成日時：2023年1月21日 21時
