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夜、時間があるため七海と会う約束をしていた。最近は暑いし何より虫に刺されるので室内での約束だ。互いの部屋に行くのは憚れたので適当な空き部屋を勝手に利用している。
お風呂から上がって、パタパタと急いでいつもの部屋に向かっていると呼び止められた。体がピシリと固まる。
「そんなに急いでどこに行くの？ 七海のとこ？」
揶揄っているのに、砂糖を煮詰めたみたいな甘い声。顔を見たくなくて振り向かずに俯いていると回り込んできた。やけに近い距離で足が止まったのが視界に移った。
「無視なんて悲しいなあ」
バニラの甘い女ものの香水の匂い。先輩の匂いじゃない、他の誰かの匂い。
いやだな。胸がドリルに削られるみたいにジリジリ痛んで、できるだけ息を吸わないように息を潜めた。
「……これ以上、弄ぶようなことしないでください」
「……」
「私は七海に向き合いたい」
「今も付き合ってるじゃないか」
「……ちゃんと好きになりたいんです」
「それってどういう意味？」
「私の気持ち知ってるくせに」
「さあ？ 聞いたことないけど」
私が睨めつけたところで先輩はビクともしない。こっちは真に迫っているのにすっとぼけた顔。
先輩の中で私はどうでもいい女なんだって、ずっとわかってた。こうやって気があるような態度を取ってくるのは、おもちゃがなくなって気を引こうとしてるだけでしょ？ わかってるのに、それでも顔を会わせるたび、言葉を交わすたびに毎回心が強制的に揺さぶられる。
もうしんどいよ。こんなの、やめたい。
「先輩にとって私なんか都合のいい女の一人でしょ？」
「そんなことないよ」
「ずっとキープしてたくせに！」
「後輩を大切にしてただけさ」
「……っ」
それってつまり、ずっとどうとも思ってなかったことですよね。手を繋いでくれたのも、ファーストピアスを開けてくれたのも、ぜんぶ。
わかってた、わかってたけどわからないフリしてたかったよ。だってまだこんなにも好きで、胸が痛くなるのに。
気を抜くと涙が零れそうで、固く目を瞑って下を向いた。泣くのを堪えようと痛いくらい噛んだ下唇に硬い指先が触れた。
「血が出ちゃうよ」
「……もう……放っておいてください……」
堪えきれなかった涙が一筋頬を伝った。先輩は躊躇いなく私に触れて涙を拭う。
「今なら私に堕ちてくれる？」悪魔のような声で先輩が囁く。
「先輩なんか最低。地獄に堕ちればいいのに」
「じゃあ地獄で待ってるよ」
待つ気なんて全然ないくせに適当なこと言わないでよ。期待させるだけさせといて放置なんてあんまりだ。私は逃げるように立ち去った。
ボロボロ涙が止まらなかった。
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墓場(プロフ) - Ａさん» レスするの忘れてました😭💦 (2023年2月4日 1時) (
レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
墓場(プロフ) - コメントありがとうございます😭🙇🏻♀️夢主の優柔不断さが物語の肝になるのでちゃんと伝わっていて安心しました……コメントとても嬉しいです、！！ストーリーが地獄ですが最後まで見届けていただけるようがんばります。 (2023年2月4日 1時) (レス) id: 95aead40e8 (このIDを非表示/違反報告)
Ａ - 七海の穏やかさが心に沁みました。最低な男に惚れてしまう私の優柔不断さも相まって、めちゃくちゃ感情移入してしまいました… (2023年2月4日 0時) (レス) @page1 id: f9229a002a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：相沢 | 作成日時：2023年1月21日 21時
